蒸気機関車牽引による列車の定期運行は、ここ磐越西線のほかJR山口線、秩父鉄道、大井川鉄道、真岡鉄道などで行われているが、当然ながらいずれも観光的な色彩が強い。「SLばんえつ物語号」も土日祝日を中心にダイヤが組まれていて、平日にお目にかかるとは思っていなかっただけにラッキーだった。久しぶりに石炭の燃える匂いをかいで、かつて蒸気機関車が日本中を走り回っていて、このなつかしい匂いが旅行の象徴だったことを思い出した。しかし、実際には蒸気機関車の旅は難行苦行だった。とくに煙と煤の攻撃にはどうにもならなかった。トンネルにはいるたびに窓を閉めるが、当時の客車は窓の建てつけも悪く、天井の換気孔も空きっぱなしの状態で、かならず煤煙がはいってくる。顔も衣服も黒く汚れるので、途中駅での停車中にホームの洗面台で顔を洗う光景がよく見られた。そのためか当時の大きな駅にはホームに5、6人が並んで使える、鏡つきの洗面台が設置されていた。旅行は汚れるのを覚悟で出かけたのである。
そういう意味では、いまではあまり汚れずに旅行できるようになった。この「SLばんえつ物語号」も客車は空調完備で気密性もよく、煤煙と無縁の快適な旅ができるのだろう。ほんとは客車も昔とおなじものを使って、あのころの難行苦行を体験できるようにしたほうがより本物のSL物語になると思うのだが・・・ダメか。
(2006.10.12 会津若松駅)

「SLばんえつ物語号」は4〜11月の土休日を中心に、会津若松-新潟間(約125km)を1日1往復運転されている。専用の12系客車6両に展望車1両を牽引する。

C57形蒸気機関車は、昭和12年(1937)から昭和22年(1947)の10年間に210両も大量生産された機関車である。このC57形180号機は、新潟市内の小学校に保存されていたもので、1999年に修復して運用している。

C57形機は細身のボイラーでスタイルがよく、貴婦人の愛称で呼ばれている。

蒸気機関車の魅力のひとつ、動輪周り。C級の機関車は動輪が3軸。この機関車の動輪直径は1.75bもある。
全長20.28b、全高3.9b、機関車重量67.5d、炭水車重量48.0dと、まさに巨大な鉄のかたまりである。