善意のすれちがい

先日、電車の車内でちょっとした光景にでくわした。
駅から60代と思われる女性が乗ってきて、つり革につかまって立った。電車が動き出してしばらくすると、後ろ側の席にすわっていた男性が席をたって女性に座るように勧めた。女性はお礼を言いながらもそのまま立ち続けた。男性は元に戻ったが、見るとその隣にひとり分空いていて、そこにすわるように勧めたらしい。しばらくすると、男性はまた立ち上がって座るように勧めた。しかし、女性はその気にならない。そのうち男性のほうが気分を害して怒り出した。そして、雰囲気が怪しくなってきたところで、ひとりの男性が割ってはいった。電車はちょうど次の駅に停車したが、件の男性は悪態をつきながら、降りていった。

これだけでは、その女性のほうが問題のように見える。なぜ、そんなに頑なに拒否したのか。たしかに席を譲られても頑固に受け入れない人はよく見かける。素直に座ればいいものを「すぐに降りますから」などと言って絶対座らない。そのくせ、すぐ降りない。譲ろうとした人は立場がなくなってしまう。しょうがないから、席を立って遠くに移動したりする。空いた席は、待ってましたとばかりにマッチョなあんちゃんが座ったりするのである。こんな光景は良く見かける。

だが、今回はなにか違う、と思っていたら謎が解けた。それは件の男性の風体にあった。着衣を始め、全身が問題含みの状態だったのである。さらに悪態をつきながらそばを通ったときに異臭がした。つまり、隣の席は初めから空くべくして空いていたのである。女性は乗ってきたとき瞬時に事態を悟って座るのを避けたわけである。だから背中をむけて反対側に立った。なのにこともあろうに、わざわざ座れとやってきた。女性にしたら最悪の状態になってしまった。もし、これがイケメンの男だったら初めから隣に座ったかもしれない。もっとも空いてなかっただろうが。
こういう場合の対処は難しい。善意を授けるほうと受けるほうとがかみ合わない典型的な場面だった。

そのあとどうなったかというと、前に座っていた若い女性が立ち上がって、また席を譲ろうとした。始めは遠慮していたが、最終的には受け入れて座った。ちなみに件の席はノーテンキそうなねえちゃんの二人連れがなんの屈託もなく占領した。気がついたらそこは優先席だった。(2004.11.21)