マイカーライフの終焉

 
  とうとうマイカーライフに終止符を打った。免許証と車検の有効期間満了が同時期になり、年齢的にも好機と思って更新をせずにやめることにしたのだ。
昨今の高齢者による事故の激増や、煽り運転などの運転マナー低下などによる運転環境の悪化もさることながら、やはり運転中の自分の注意力や咄嗟の判断力などの低下に気付いてきたことによる決断である。
軽微な違反はあるものの、事故もなくここまでクルマに乗ってこられたのはラッキーだったと思う。
 
  60年にわたる運転歴にはいろいろな思い出があるが、北は旭川から南は沖縄までの国内各地を家族を乗せて自車やレンタカーで走り回った。
これまでに使ったクルマは6台だが、平均するとそれぞれ10年は乗っていることになる。
クルマはちゃんと洗車をし、車検や定例の整備にもマジメに出してきた。それを見て営業マンが次期のクルマを、と狙ってくるのをかわしてここまで維持し続けた。営業泣かせの客ではある。しかし、少なくともこれまで使ったクルマはほとんど故障していない。10年くらい平気で乗れる。それだけ日本のクルマは長持ちするのだが、長持ちする理由というものがちゃんと存在するのだ。それが車検制度である。2年に1度の実施が義務付けされていて、受けないとクルマに乗れないという巧妙に作られた制度である。これにより、メーカーとディーラーは売った後も儲けられるようになり、監督する省庁も利権を確保できるという仕掛けなのだ。ユーザー側も車検は当たり前の制度として、いやいやながらも受け入れざるを得ない。結果として、少なくともクルマ本体の安全性は保たれるようになっている。
一方で、あまりクルマが長持ちしてもメーカー側は有難くはないかもしれない。

国内だけでなく海外での運転経験もした。海外出張の折には出張先の都市部だけでなく鉄道のない郊外のイナカに行くことも多く、レンタカー利用で運転せざるを得ない状況となる。とくに長期滞在では通勤や買い物など日常生活のための運転を余儀なくされ、運転免許所持は必須である。
  思い出深いのが
米国のカリフォルニア州(サンディエゴ・サンフランシスコ)、マサチューセッツ州(ボストン)、テキサス州(ヒューストン・サンアントニオ)、カナダ(バンクーバー)などで運転経験をしたことで、とくにサンディエゴやボストンでは長期滞在のため、アパートやホテルと会社の間を毎日往復し、アメリカのフリーウェイでの走りを満喫した。
  米国の交通は自動車主体であるため、道路の整備が行き届いている。幹線道路から末端道路までのすべてに名称がつけられている。これにより住所は必ずその道路名と番地であらわされるので、道路地図さえあればどこでもクルマで到達できるのである。

  サンディエゴ滞在中に米国人の社員からディナーの招待を受けたことがあった。
自宅まで来てくれというのである。といって、一緒に行ってくれるわけでもなく、名刺を渡してここに来い、という。隣町のDel Marというところなので、それほど遠くはないが、地図を頼りに日没前の道路に繰り出した。途中で手土産を買って目指す道路と番地に向かったが、夕闇迫る外国の見知らぬところへひとりでクルマを運転して行くのは正直なところ不安でいっぱいだったが、道路地図の威力は抜群で、無事に目的地に着いて大歓迎を受けた。
 
道路地図の威力は道路システムがしっかりしているからで、さすがクルマ王国(というより鉄道貧国)である。
何度か行った米国東海岸のボストンでは、空港からさらに西へ40マイル(64Km)のMarlboroという田舎町に行く必要がある。ボストンも東京と同じように都心を中心とする何本かの環状道路と放射状道路があって、それらをつないで走れば目的地に到達できる。空港に到着してすぐにレンタカーを借り、空港海底トンネルを通って都心部の混雑する道路に出ると複雑なジャンクションを通り抜けなければならない。なんとかここを抜けて、Interstate90というフリーウエイにはいり、2,3か所のインターチェンジを経て、目的地に到達する。郊外に向かうほど道路も空いてきて快適な運転を楽しめる。
その後何回か行くうちにいろんな道を覚え、休みの日には町を通るBoston Post Road(ボストン郵便道路)という、ニューイングランド時代の面影の残る古い道路を走ってボストンの市街地に出かけたりすることもあった。この道路はボストン市とニューヨーク市の間の郵便配達経路として開通したもので、ボストン付近では国道20号線(US20)となっている。いわゆる自動車専用道路ではなく、街中では信号もも多く片道1車線のところもあるような普通の道路で、西方向に行けばニューヨーク州に到達できることになっている。州境まで行ってみようと出かけたが、思ったより遠く途中で引き返した。やはりアメリカは広い。

サンフランシスコは坂だらけの町で、混んでいるときは走りにくいうえに、路上駐車は可能ではあるものの、坂の途中で横向きに停めなければならないようなところがあって、非常に怖い。市内ではあまりクルマの運転はしたくないが、郊外に出ると広々としたアメリカらしい風景のなかドライブを楽しめる。
 
 このように、外国の未知の道路を走ることなど若かったからできたことで、今はもうそんな度胸はない。若いということは素晴らしいとつくづく思う。
2024.01.12