新幹線脱線と報道

新幹線が脱線した。営業運転中の脱線事故は新幹線開業以来40年間で初めてのことである。しかし、相手が地震とあってはどうしようもない。それでも怪我人をひとりも出さずにすんだのはよかった。

さて、この事故をいろんなメディアが報道している。曰く、「新幹線 安全性に死角」、「耐震新幹線 限界と成果「直下型」感知しきれず」、「新幹線の安全神話も揺れた」等々、大新聞の見出しである。テレビなども大体同じような論調である。共通するのは、「やっぱりそうか」、「それ見たことか」と待ってましたとばかりに新幹線は危険であるかのように報道した。いつものメディアのやりくちではあるが、鉄道ファンとしては黙っていられない。

そもそも40年間乗客に死傷者が出るような事故がゼロであったのは、新幹線建設時から安全対策を講じ、日々のメンテナンスを怠らなかった成果である。これを「安全神話」などと言っているが、神話の意味を取り違えているのではないか。神話とは、「実体は明らかでないのに、長い間人々によって絶対のものと信じこまれ、称賛や畏怖の目で見られてきた事柄」とある。
しかるに、新幹線の安全は安全対策という実体があって守られてきた。そして40年間ゼロ実績を積み重ねてきた。だからといって絶対に安全とは一度も言っていない(国鉄OBで交通評論家の角本良平氏 - 週刊新潮から)のである。したがって安全神話などというものは初めから存在しない。

地震については新幹線に限らず対策がきわめて難しい。だから現在考えられる最良の対策が「ユレダス」システムである。これは地震が発生したときにP波と呼ばれる初期微動が最初にあり、その6〜30秒後に主要動(S波)が到達するという性質を応用したもので、P波を感知するとその地域の線路への送電を止めるというものである。原理からいって直下型地震には間に合わないということは初めからわかっている。今回脱線した「とき325」はまさにその直下型に襲われたのである。しかし、ユレダスは正しく作動し、送電を止めたために「とき325」はもちろん、後続列車や対向列車はすべて途中で停車した。「とき325」は線路が揺れたために車輪が浮き上がって脱線したと言われているが、正確な原因は今後の調査を待つしかない。おそらく停電したためにそれ以上の力行はせず、急ブレーキをかけて惰性で走るうちに線路のゆがみで次々に脱輪したのではないかと推測する。ほかにも理由があるだろうがユレダスが奏効して奇跡的な結果になったと考えるのが妥当だろう。

日本のメディアは冒頭のような報道をしたが、外国はまったく違う報道をしたという。(「週刊新潮 11月4日号 「脱線」だけで大惨事を免れた「新幹線」技術を称えよ!」から)
-----------------------------------------------------------------------
日本の新幹線が40年間で初めての脱線だったものの時速210`でコース(線路)から投げ出されても誰も負傷しなかったことに注目。(フランスAFP)
「新幹線の奇跡」という見出しで、脱線にもかかわらず負傷者がいなかったことを「奇跡」と表現。そして、時速210`で走行中の新幹線が自動停止システムが作動したおかげで人的被害がなかったと紹介し、その安全性を高く評価している。(韓国京郷新聞)
-----------------------------------------------------------------------
同じような高速鉄道を持つフランスと韓国であるため、特別に関心が高いと思われるがきわめて当を得た報道である。こういった当たり前の報道を日本のメディアは絶対にしない。自虐報道(週刊新潮による表現)症候群という病に冒されているからである。しかもかなりの重症である。
奇跡の原因を、たまたま雪国仕様で車体が重かったとか、上下線の間に雪落としという溝があって、そこに車体が落ち込んだので転覆を免れたなどと言ったうえで、そうでない東海道・山陽新幹線だったら、転覆まちがいなしというようなことを言外に言い立てる。こうしてわざわざ問題を大きくして不安を煽るのである。事故がおきると勝手に安全神話などとでっち上げて当事者を完膚なきまでにたたくのが日本のメディアの常套手段である。当事者はそれまで営々と築き上げてきた実績を一瞬のうちに消され、挙句の果てに記者会見という魔女裁判で断罪され、レッテルを貼られてしまうのである。知る権利、報道の自由などの盾に隠れて言いたい放題、書きたい放題をやっているのが今の日本のマスメディアである。今回のような不可抗力による事故でも犯人でっち上げに余念がない。事件、事故が起きて必ずもうかるのはメディアなのである。

いずれにしても、読者、視聴者はでっち上げや世論操作にだまされないよう十分気をつける必要がある。(2004.11.06)