JR・相鉄直通運転開業 2019.12.13
関東の大手私鉄で、これまで東京都心には唯一乗り入れていなかった相模鉄道(相鉄)がその宿願を果たした。従来の都心乗り入れでは、ほとんどが都心を走る地下鉄に接続することで直通運転を実現しているが、そういった地下鉄とは縁のない相鉄ではまったく違う方式をとっている。
相鉄は横浜駅から神奈川県央域の大和市・綾瀬市・座間市・海老名市をつなぐ鉄道路線で、本線(横浜駅-海老名駅間24.6km)と、二俣川で分岐するいずみの線(二俣川駅-湘南台駅間11.3km)の2路線をもつ。他社線との交わりは横浜駅でJR・東急・京急・横浜高速・横浜市営地下鉄、海老名駅・大和駅でそれぞれ小田急、湘南台駅での横浜市営地下鉄くらいである。かつて開業当初には国鉄相模線の寒川駅まで乗り入れていたり、海老名駅から小田急小田原線にはいり、本厚木駅まで旅客列車が乗り入れていたというが、それぞれ廃止された後、現在まで相互乗り入れができる状態にはなかった。
そこに神奈川東部方面線という計画が持ち上がり、都心乗り入れが一挙に進むことになったのである。この計画は、相鉄本線の西谷駅から分岐する形で新たに連絡線(相鉄新横浜線)を建設し、他社線へ直通することで東京方面に乗り入れるものである。乗り入れ相手はJR東日本および東急電鉄となった。つまり、すでに都心乗り入れをしている他社線に線路を延ばして接続し、他社線の線路を借りる形で都心部に電車を走らせようとするもので、相手側も相互に乗り入れてくる。このような例は京成電鉄に接続して都心に乗り入れている北総鉄道にある。
まずは、西谷駅から分岐して約2km先のJR貨物の横浜羽沢駅に隣接して羽沢横浜国大駅が作られた。この駅ではさらにJR線方面と新横浜-東急線方面に分かれる。JR線方面の行く先は埼京線で、東海道本線貨物支線を通って鶴見から品鶴線(もともとは貨物線だが、すでに旅客化されて横須賀線・湘南新宿ラインが走っている)にはいったあと、武蔵小杉駅で横須賀線・湘南新宿ラインに合流し、大崎駅に達して埼京線に接続する。一方、JR側からは埼京線の電車が乗り入れてくる。したがって、羽沢横浜国大駅から武蔵小杉までの約17km区間には駅はない。JRとしては既存の貨物線をフルに活用することで、ほとんど負担をせずに線路使用料をしっかり取る算段なのだろう。
一方、新横浜-東急方面では、羽沢横浜国大駅からさらにJR新横浜駅まで伸長して新たに相鉄新横浜駅を作る。その新駅を目指して東急が日吉駅から連絡線を建設して接続することになっている。この連絡線は東急新横浜線と称することが公表された。開業は2022年度で、これにより相鉄本線と東急目黒線・東横線との相互直通運転が予定されている。
上記のうち、2019年11月30日にJR直通線が開業し、相鉄海老名駅-JR新宿駅-JR川越駅のルートが出来上がったので、その要となる武蔵小杉駅-西谷駅間を往復してみた。

JR武蔵小杉駅

JR武蔵小杉駅は新ルートへの分岐駅となる。ここから羽沢横浜国大駅まで16.6kmの間に駅はなく、ノンストップで走る。所要時間は17分。

入線してきたのはJR車で埼京線のE233系7000番台。237M各駅停車海老名行き。この路線でのE233系7000番台は初顔だ。相鉄側からは新鋭の12000系が乗り入れる。

横浜方面に行くときは要注意。ここで乗り換えなければならない。

武蔵小杉駅を出るとすぐに分岐して貨物線にはいり、一気に羽沢横浜国大駅に向かう。
羽沢横浜国大駅駅は相鉄の駅で駅ナンバーは「SO51」となっている。
この先、殺風景な貨物線とトンネル区間を延々と走るが、表定速度は58.5km/hとかなり遅い。

羽沢横浜国大駅

JRから相鉄に乗務員交代。運行番号が相鉄の93に入れ替わっている。

列車の運転間隔は30分。相鉄側は特急と各停が交互に運転されるようだ。

駅の正面。所有は相鉄だが運用は相鉄・JRの共同使用。

地上に出ると東海道貨物の横浜羽沢駅が広がっている。

新横浜方面との分岐。外側はJR方面。内側2線が新横浜-東急方面の線路。

入線してきた相鉄12000系。141M特急海老名行き。
西谷駅

新横浜線が合流してくる地点。

71運行に入れ替わり西谷駅からは特急として海老名に向かう。

西谷駅を発車して埼京線に戻るE233系新宿行き。

海老名から引き返してきて再び新宿に向かう71運行。
直通運転による効果
今回の直通運転によってどのような効果があるのだろうか。直通線は埼京線につながるため、都心部といっても行く先は渋谷・新宿・池袋といった副都心部となる。相鉄沿線の利用者にとってこれらの副都心部に出るには、横浜駅経由のJR線や東急線利用、もしくは海老名駅または大和駅経由の小田急線利用がほとんどのはずだ。そこに今回羽沢横浜国大駅経由が加わった。利便性の要素として、乗車時間と乗り換え回数がある。相鉄各駅から横浜駅・大和駅・海老名駅経由では必ず乗り換えが発生するが、直通線によって西谷駅以遠からの乗車では乗り換えなしの選択肢ができた。
そこで、それらの接続駅から都心乗り入れのポイントとなる、新宿駅および渋谷駅までの乗車時間を調べると、それぞれ最速の場合に以下の通りとなった。
(Yahoo乗り換え案内により調査)
接続駅 路線 到着駅 乗車時間 乗り換え
羽沢横浜国大 JR埼京・相鉄直通線 新宿 37分 0回
横浜 JR湘南新宿ライン 新宿 31分 1回
大和 小田急江ノ島線 新宿 40分 1回
海老名 小田急小田原線 新宿 40分 1回
羽沢横浜国大 JR埼京・相鉄直通線 渋谷 32分 0回
横浜 JR湘南新宿ライン 渋谷 26分 1回
横浜 東急東横線 渋谷 25分 1回
これによれば、新宿、渋谷とも横浜経由が早いが、横浜での乗り換え時間を考慮すると乗り換えなしの直通線とほぼ互角と考えられる。
接続駅の利用のしかたによってどのように変わるかを、本線と直通線との分岐点である西谷駅から新宿駅までを例にとって比較すると以下のようになる。なお、渋谷駅に関しては小田急線からは直接行けず、さらに他社線への乗り換えが発生するため比較していない。
経路 乗り換え 乗車時間 運賃 営業キロ
西谷-羽沢横浜国大-(直通線)新宿 0 41分 738 39.3
西谷-横浜ー(湘南新宿ライン)新宿 1 38分 739 42.4
西谷-大和-(小田急江ノ島線)新宿 1 50分 661 50.4
西谷-海老名-(小田急小田原線)新宿 1 57分 765 60.2
西谷駅からの乗車では、横浜駅乗り換え時間を加算すると直通線とほぼ同じ所要時間なので直通線には「乗り換えがない」メリットがある。混雑の激しい横浜乗り換えを避けて直通線に乗る利用者が多いかもしれない。西谷駅よりも横浜寄りの駅ではそのまま横浜へでたほうが有利と考えられる。
直通線との乗車時間がほぼ均衡するのは二俣川駅(大和乗り換え)で、これより遠ざかれば直通線は時間的に不利になるので、従来通りの小田急線利用が続くだろう。
経路 乗り換え 乗車時間 運賃 営業キロ
二俣川-羽沢横浜国大-(直通線)新宿 0 45分 769 42.9
二俣川-横浜ー(湘南新宿ライン)新宿 1 42分 760 46.0
二俣川-大和-(小田急江ノ島線)新宿 1 46分 640 46.8
二俣川-海老名-(小田急小田原線)新宿 1 53分 734 56.6
瀬谷-羽沢横浜国大-(直通線)新宿 0 53分 790 47.9
瀬谷-横浜ー(湘南新宿ライン)新宿 1 49分 823 51.0
瀬谷-大和ー(小田急江ノ島線)新宿 1 42分 609 41.8
瀬谷-海老名-(小田急小田原線)新宿 1 52分 702 51.6

まだ開業直後の状態で断言できないが、今のところ二俣川駅以遠については直通線の優位性はなく、二俣川駅~西谷駅の各駅からの乗車でも直通による時間的な要素は大差ない。メリットは「乗り換えなし」に尽きる。
そもそもこのJR直通線は埼京線につないだことで、行く先がいわゆる都心部ではなく新宿・渋谷・池袋といった副都心に限られる。そのため、相鉄線沿線からこの地域への通勤者にとっては多少の利便性はあるだろうが、相鉄線沿線の性格上、逆方向の利用は極めて少ないのではないか。一方、2022年度に予定されている東急線直通は新横浜駅への新ルートができることで相鉄、東急双方からの新幹線利用者には大きなメリットがある。こちらは大いに期待が持てる。

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