神戸電鉄有馬線・北神急行電鉄北神線     2012.09.23
 神戸電鉄は神戸市北部、つまり六甲山地の裏側に路線をもつ鉄道である。発祥は古く、昭和3年(1928)に湊川〜有馬温泉間の有馬線(22.5km)と有馬口〜三田(さんだ)間の三田線(12.0km)が相次いで開通した。その後昭和27年(1952)鈴蘭台〜粟生(あお)間の粟生線(29.2km)、昭和43年(1968)湊川〜新開地間の神戸高速線(0.4km)、そして横山〜ウッディタウン中央間の公園都市線(5.5km)が平成8年(1996)に開通している。
軌間1067mm。有馬線の新開地〜有馬口間は複線だが、その他の路線は複線と単線が混在する。

神戸電鉄の本線ともいうべき有馬線は、なんといっても全線の70%にわたって10‰以上の急勾配と急カーブが連続する山岳路線であることが大きな特徴だ。全国にはほかにも山岳路線はある。このような路線を持つ鉄道会社が集まった「全国登山鉄道‰(パーミル)会」という親睦団体があるという。調べてみると「全国の私鉄のうち、観光地が沿線に有り、かつ登山鉄道としての性格を有している鉄道会社(ケーブルカーは除く)が、統一PRやキャンペーン展開などを実施することを目的として結成された」とある。加盟しているのは、大手私鉄の南海電鉄と中小私鉄の神戸電鉄・富士急行・大井川鐵道・叡山電鉄・箱根登山鉄道の6社である。口利きをしたのは高野線を抱える南海電鉄らしいが、たしかに各鉄道とも観光用の登山鉄道としての色彩が濃い。目的地は山そのものや、山の上のお寺や温泉などのある観光地である。そのなかで神戸電鉄はちょっと一味違っている。有馬線は、もともと神戸市内から六甲山地のヘリをまわって有馬温泉への旅客輸送を目的に建設された。しかし近年、その沿線は神戸市のベッドタウンとしての開発が進んで人口が急激に増え、神戸市内に通勤通学する利用客のために、いまや1日250往復以上の列車が走る通勤路線なのだ。大都市のすぐそばにこのような山岳鉄道があることは珍しい。神戸特有の地形によるものだろう。

この有馬線に神戸市中心部から六甲山地を横断して直接アクセスする短絡線が北神急行電鉄北神線である。新神戸駅から六甲のどてっ腹を全長7276mのトンネルで抜けて有馬線の谷上(たにがみ)駅に至る7.5kmの路線で中間駅はない。新神戸以南は神戸市営地下鉄に直通して西神中央駅に至る。自社線内だけの運転はなく全列車が直通する。
北神急行の経営形態は現在、阪急阪神ホールディングスの傘下で、第2種鉄道事業者となっている。線路などの施設は神戸高速鉄道が保有している。軌間は1435mmで全線複線。

 北神急行電鉄北神線
 新神戸駅 
JR新神戸駅の地下にあり、北神急行と市営地下鉄の共同使用駅。車両は相互乗り入れし、地下鉄側は新神戸止まりがあるが北神側にはなく、全列車が地下鉄線に直通している。ホームは2面3線で、谷上方面は1番。西神中央方面は2番、3番ホームとなるが、時間帯によっては1番ホームで西神中央方面行きが折り返す。上の写真では1番ホームに折り返し電車(右:市営地下鉄3000形)が停車中。奥の3番ホームには1000形電車が停車している。
神戸市営地下鉄路線案内図

 新神戸を出た列車はそのまま全長7276mの北神トンネルにはいり、約8分で終点の谷上駅に到達する。
 谷上駅 
北神トンネルを出ると左側に神戸電鉄線が近づいてきて谷上駅に到着する。3面5線の大規模なホームを持ち、神戸電鉄が北側の3線、北神急行が南側の2線を使っている。当駅の利用者は1日あたり約13000人で神戸電鉄で第一位という。この駅での両鉄道の相互乗り入れは軌間が異なるためにできない。
駅の標高は244m。
3面のうちの中央のホームは共用で、北神急行(左)と神戸電鉄(右)が相互に乗り換えできるようになっている。いま有馬線の電車が到着して北神線に乗客が乗り換えようとしている。
 発車してすぐに北神トンネルにはいってゆく市営地下鉄3000形電車。
トンネル内は標高50mの新神戸駅から標高244mの谷上駅まで33.3‰の上り勾配となっている。
北神トンネルの長さは、私鉄のトンネルとしては北越急行ほくほく線の赤倉トンネル(10472m)および鍋立山トンネル(9132m)に次いで日本第3位である。
 北神急行の7000形
北神急行の開業(1988)に合わせて1987年から製造された。6両編成5本が在籍する。VVVFインバータ制御車。
 神戸電鉄有馬線
山岳鉄道の急勾配・急カーブを体験すべく谷上駅から新開地駅までを行脚してみた。基本的には新開地までずっと下り坂だが、途中の山の街駅と北鈴蘭台駅付近では標高が高くなり、その後は急速に標高が下がって行く。線路マニアとしては、急勾配・急カーブの線路の様子を見ないわけにはゆかない。そこでワンマン運転列車の最後尾車両に乗り、その一番うしろにかぶりついてめったに見られないダイナミックな線路を大いに満喫した。

 谷上駅を発車してすぐ33.3‰の急坂を登ってゆく3000系三田行き。
 進入する1100形新開地行き。 この電車に乗り込んで後方車窓を狙う。

 箕谷駅〜山の街駅 上り坂になり始めた。
山の街駅(標高316m)で下り電車とすれ違い。
急勾配が続く。 山の街駅〜北鈴蘭台駅 
 北鈴蘭台〜鈴蘭台 50‰の急勾配と急カーブが重なる。 

 40‰の勾配。 北鈴蘭台駅〜鈴蘭台駅

 鈴蘭台駅 
鈴蘭台駅は有馬線と粟生線の分岐点で鈴蘭台車庫がある。
 左に分岐するのが粟生線で、単線となる。すぐに50‰の急坂が始まる。有馬線はいったん下って再び40‰の上り坂となる。
2面4線のホームがある。左が新開地方面行きホーム。右ホームの手前が三田方面、奥が粟生方面で停車中の電車は2000系。駅の標高は278m。
 三田行き5000系電車。神戸電鉄初のVVVFインバータ制御車。
粟生線から50‰の坂を下ってきて入線する新開地行き5000系電車。
 新開地から来た鈴蘭台駅止りの1100形(左)と並ぶ1300形。
 鈴蘭台駅をあとに新開地方面に向かう。

 とたんに急坂が始まる。 鈴蘭台駅〜鵯越駅 右の線路は車庫への連絡線
 50‰の急坂と急カーブが続く。 鈴蘭台駅〜鵯越駅  

 鵯越駅 
2面2線の無人駅。標高134m。
 
このあたりは源平の古戦場に近いところから昭和16年に源平町と名づけられたという。源義経の鵯越の逆落としの現場も近くのはずだがよくわからなかった。
 鵯越駅を出るとすぐにトンネルがあり、その先はまた下り坂となる。

 丸山駅 
2面2線の無人駅。標高95m。
 丸山駅を発車した新開地行き3000系電車 
 進入する新開地行き1500系電車。
振興開発地区らしく、山の斜面にびっしりと住宅やマンションなどが張りついている。

 33.3‰のS字カーブ 丸山駅〜長田駅

 長田駅 
2面2線の無人駅。標高70m。
 
 三田行き3000系。
跨線橋上から。
 新開地駅 
 神戸高速鉄道が保有する駅で、神戸電鉄は第2種鉄道事業者として湊川駅〜新開地駅間0.4kmを運行し、すべての列車を当駅まで運転している。神戸電鉄有馬線の正式な起点は湊川駅である。同様に阪神電鉄と阪急電鉄も当駅に第2種鉄道事業者として乗り入れている。
有馬線のほぼ南半分を乗り、そして見てきたが、さすが山岳鉄道の名に恥じない堂々たる線路だった。「パーミル会」の各社ともそれぞれ名うての登山線路をもつが、それでも30〜50‰の勾配が連続する線路を通勤電車が頻繁に走るような鉄道は神戸電鉄しかないだろう。そんな急坂を普通に駆け上ってゆく電車には驚きだし、地元の人たちもそれが当たり前という顔で乗っている。騒いでいるのはヨソ者の鉄道ファンだけだが、しかしそれは、それだけこの鉄道がスゴイからなのだ。
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