富山の電車たち 2016.05.23
2015年3月に開業した北陸新幹線は、いわゆる大当たりであった。東京-金沢間の利用者は1年前までの在来線特急の利用者の3倍を超え、これに伴って石川・富山両県の地域経済への開業効果は予想を上回るものという。
北陸は東京から見ると、あの日本最大の山岳地帯のはるかかなたにあって遠い存在だった。実際、金沢までは上越新幹線と在来線最高速の特急「はくたか」に乗り継ぐ最短ルートで行っても4時間の旅だった。むかし金沢には空路で往復したことがあるが、小松空港と金沢市内間が遠いので全体として列車で行くのとあまり違いはなかった。それが北陸新幹線になって最速2時間半になったのだ。しかも乗り継ぎなしで直接金沢まで行けることは大きなメリットになった。そのため、北陸新幹線開業以降、羽田-小松間の航空機利用者は激減し、航空各社は減便を余儀なくされている。

北陸新幹線により、富山・金沢は東京からの日帰り圏になった。かつて、東海道新幹線によって大阪日帰り出張が可能になったときのように、日帰りの北陸出張を強いられるビジネス客も増えるかもしれない。そんな日帰りのメリットを生かして、多彩な電車が活躍する富山市に行き、その電車たちの撮影をしてこようと急遽思い立った。
途中、上野-大宮-長野だけに停車駅する速達タイプの「かがやき」に乗ると、東京から2時間10分で富山に着く。7時台の列車で行って、19時台の列車で帰ってくると現地に10時間近く滞在できる。
北陸新幹線 富山ライトレール 富山市内電車 富山地方鉄道 鉄道線 富山駅

北陸新幹線

東京駅21番ホームの北陸新幹線専用のE7系電車。JR西日本のW7系も乗り入れているが、車両そのものはE7系と同じ。
北陸新幹線の東京-金沢間の運転形態は、速達タイプの「かがやき」と各駅停車(熊谷駅と新庄早稲田駅を除く)タイプの「はくたか」に大別される。そのほか東京-長野間の「あさま」と金沢-富山間の「つるぎ」が運転されている。「つるぎ」は関西方面からの在来線特急「サンダーバード」および名古屋からの「しらさぎ」と金沢駅で接続して富山駅までの乗客を運ぶためのシャトルである。

東京駅には九州新幹線を除くすべての新幹線からの列車が乗り入れている。そのうち、JR東日本管内の東北(北海道を含む)・山形・秋田・上越・北陸各新幹線のすべてが大宮駅で収斂して東京駅に向かう。そのため大宮-東京間(東北新幹線)は多くの列車が輻輳して列車密度は極めて高い。そのせいかこの区間の速度は非常に遅い。30.3kmを24分かけて走るので表定速度は75km/h程度である。実際に東京からこの区間を乗ると遅いことが実感できる。本来の新幹線の本領を発揮するのは大宮を過ぎてそれぞれの線路に分かれてからである。
北陸新幹線は、しばらく上越新幹線の線路上を走り、高崎を過ぎて自前の線路に入るが、たしかに速度は急に速くなる。「かがやき」の場合、大宮-長野間の表定速度は192km/hだが途中に碓氷峠トンネルがあり、30‰の登り勾配が連続するため速度は落ちるようだ。長野-富山間では216km/hに達する。最高速度は260km/hだが、実際にどこで最高速度が出ているかは乗っていてもよくわからない。そこでスマートフォンのスピード計測アプリを使ってところどころで測ってみた。


たまたま黒部付近から富山までの間で256.5km/hを記録したが全区間を連続して測れば興味深い結果となったかもしれない。スマホのバッテリー残量の関係で断念したが、少なくとも最高速度前後まではマジメに出していることがわかった。
北陸新幹線は整備新幹線であるがゆえに、最高速度が260km/hに制限されている。これを緩和するなりして300km/hで走るようにすればもっと所要時間は短縮できる。車両や構造物はそれに耐えられるようになっているという。北海道新幹線も青函トンネル内は不可としても、盛岡-新青森間や木古内-新函館北斗間の速度制限を緩和すれば、4時間の壁は突破できるのではないか?



富山ライトレール(Toyama Light Rail;TLR)
富山市では2006年4月にLRT(Light Rail Trasit)と呼ばれる路面電車を第三セクターの「富山ライトレール(TLR)」が運営を開始した。これは、JR西日本が保有していた鉄道線の富山港線の廃止に伴い、その線路を使って路面電車化したものである。富山ライトレールは地方都市の交通活性化とそれを軸に住みやすいまちづくりを狙って発足したもので、先駆的モデルとして全国的にも注目されているという。

LRTとは、国土交通省では、「低床式車両の活用や軌道・電停の改良による乗降の容易性、定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を有する次世代の軌道系交通システム」と説明している。要するに従来型の路面電車よりも、乗り降りしやすい、時間通りに来る、速くて乗り心地がいい路面電車による交通システムのことを言っているらしい。たしかに乗降の容易性のためにはステップがない低床式車両がいいだろう。現に地方都市の路面電車の多くで低床式の車両を導入している。これをLRTとは言わないのか?と突っ込みを入れたくなるのだが。。。実は「低床車両=LRT」ではないらしいのだ。

LRT(Light Rail Transit)という概念は1970年代に米国で考え出されたもので、それは「大部分を専用軌道として部分的に道路上(併用軌道)を1両ないし数両編成の列車が電気運転によって走行する、誰でも容易に利用できる交通システム」を簡易な設備による低コストな建設を目指して開発するということだ。しかしここでは低床車両を使うとは言っていない。結果として低床車両になる場合もあるのだろうが、日本では国交省の説明で低床車両とわざわざ言っているために「低床車両=LRT」と思われているふしがある。

日本だけに限らず、欧米各国の地方都市においては高齢化や人口減など年々進む社会構造の変化によって住民生活が影響を受けているなかで、とくにこれまでクルマに頼っていた市外(郊外)の住民が高齢化のために運転をやめたりして市内への移動が困難になるケースが増えている。このような状況の打開策のひとつとしてLRTが導入されているのだ。LRTの建設と同時に沿線の開発も進めることで都市再生の狙いもあるわけで、富山ライトレールもこの考え方に沿ったものとして注目されているのだ。

富山ライトレールは国鉄からJR西日本に引き継がれたのちに廃線になった富山港線の線路を再利用している。富山駅北停留場から1.1kmは併用軌道を新たに敷設し、旧富山港線の線路に接続して専用軌道として岩瀬浜駅に至る全長7.6kmの路線である。もともと非電化だったが直流600Vで電化し、現在の単線も複線化の計画があるという。停留場/駅数は13で、そのうち併用軌道内は3停留場、専用軌道内は10駅となっている。

運賃は一律200円。

動画(スタートボタンをクリックしてください)

富山駅北停留場に入線するTLRの電車

JR富山駅北口前にあるTLRの富山駅北停留場 降車専用を含めて2面2線のホーム構造となっている。
現在は富山駅北口でとまっているが、目下富山駅自体が新幹線開業にあわせた大きな改良工事をおこなっており、完成の暁には南側の市内電車の停留場まで延伸して接続することになっている。南側からTLRのこの停留場までの地下道をかなりの距離を歩かなけれならない不便も解消されるのだろう。

TLRの超低床式車両 TLR0600形 2車体連接型電車で軌間は1067mm 7編成が導入された 
富山港線に因んで "PORTRAM"という愛称がつけられている

城川原駅にて上り電車の待ち合わせ。開業10周年のヘッドマークを掲げた電車がやってきた。

富山駅北停留場から24分で終点岩瀬浜駅に到着 

1面1線のホーム 日中は15分間隔で運転される 駅周辺にはなにもないが、徒歩5分くらいのところに岩瀬浜海水浴場がある。行ってみたがこの時期、広大な砂浜が広がるだけだった。

富山市内電車
正式には富山地方鉄道市内軌道線で、富山地方鉄道(ちてつ)が運営する路面電車線である。富山市の中心街を3系統の路線が走る。
1系統:本線(南富山駅前(富山地鉄不二越・上滝線)-富山駅前) 複線
2系統:支線(南富山駅前-富山駅前-大学前) 複線
3系統:環状線(富山駅前-富山駅前) 単線一方通行で市中心部を一周する
いずれも軌間1076mmで直流600Vの併用軌道線。
運賃は一律200円だが、富山地鉄の1日フリーきっぷを買うと鉄道線にも乗れる。2500円というのはちょっと高いようだが宇奈月温泉駅や立山駅までも使えることを考えれば高くはない。

北陸新幹線開業に伴う富山駅改良で、新たに富山駅構内に設置された市内電車の停留場。数年後にはこの奥にTLRが延伸してきて接続する。
左は2系統の大学前行き、右は1系統の南富山駅前行き。いずれも7000形電車。
動画 (スタートボタンをクリックしてください)

富山駅前停留場
8000形電車

左は本線の南富山行き。右は環状線の電車(CENTRAM;セントラム) (電気ビル前)

超低床式の9000形 この車両は富山市の所有で3編成が在籍する。(丸の内)

富山地鉄の超低床式車両 T100形(SANTRAM;サントラム) 3編成が在籍する。(富山駅前)

富山城をバックに走る環状線のセントラム。 この環状線の線路は富山市が所有するためセントラムのみが走ることになる。運営は富山地鉄が行う。(国際会議場前)

富山地方鉄道 鉄道線
富山地方鉄道の鉄道線は4路線がある。
・本線:電鉄富山駅-宇奈月温泉駅 53.5km
・立山線:寺田駅-立山駅 24.2km
・不二越線:稲荷町駅-南富山駅 3.3km
・上滝線:南富山駅-岩峅寺駅 12.4km
全線電化直流1500V、軌間1067mm、全線単線
本線と立山線では急勾配区間が多いため、ほとんどの編成が全電動車となっている。

富山地鉄のターミナルは電鉄富山駅 JR富山駅に隣接する。

頭端式3面4線のホーム構造。使用している車両は自社オリジナルのほかに譲渡車両も多い。
左は10030形(もと京阪3000系)、右は14760形(旧塗装)

同じ10030形だが、左は富山地鉄の新塗装で、右は京阪電鉄時代の塗装のまま使われている。

ヘッドマーク置き場。使われていないものもあるらしいが、HMマニアのためにおいてあるそうだ。

稲荷町駅は本線と不二越・上滝線との分岐駅で、車両基地が隣接する。左から14760形・10610形(もと西武5000系のレッドアロー号)・10020形
不二越・上滝線ホームから。木造のホームが珍しい。

17480形(もと東急8590系) 不二越・上滝線の電鉄富山行き

本線と立山線が分岐する寺田駅。手前が本線、向こうが立山線

本線の宇奈月温泉行き 特急アルペン号

中間に、もと京阪電鉄ビスタカーのダブルデッカー車をはさむ3両編成。

立山線の普通立山行き電車

本線越中泉駅で途中下車

ここで降りたのは立山連峰を遠望するためだったが・・・天気晴朗なれど山かすみたり・・・残念!やはりこの季節は難しい。しかるべき時期にまた来なければならない。

それでも気を取り直してなんとか剱岳(2999m)をとらえた。(画像修正あり) 右は立山。

時間の関係で上市駅まで行って引き返すことに。上市駅はスイッチバックの駅。ここから先は進行方向が逆になる。

右の電車は地鉄では最新の17480形車両で、もと東急電鉄の8590系。東急大井町線を走っていたときのままの姿で再会だ。現在2編成が所属する。左の車両はクハ170形制御車(非電動車)で、モハ14720形と連結して運用されるという。

上市駅を発車すると、すぐに宇奈月温泉方面の線路が分かれてゆく。

立山連峰に源流をもつ常願寺川を渡る。この川は落差約3000メートルを50数キロで流れ下るために上流は激しい急流が多く、大量の土砂を発生させる。このため、上流には土砂の流出を食い止める砂防ダムがたくさんあり、その建設と管理のために立山駅付近から国交省管轄の立山砂防軌道(トロッコ列車)が17.7kmにわたって敷設され、人員や資材の運搬をしている。

富山駅
富山駅は新幹線開業に伴い大規模な改良工事が行われている。このなかで、並行在来線になった北陸本線がどのように変貌したかが興味の的だ。北陸本線は金沢-直江津間がすべて並行在来線扱いとなって、石川県・富山県・新潟県下のそれぞれ第三セクターによる鉄道に分割された。
県名 路線 区間 営業キロ
石川県 IRいしかわ鉄道線 金沢駅-倶利伽羅駅 17.8km
富山県 あいの風とやま鉄道線 倶利伽羅駅-市振駅 100.1km
新潟県 えちごトキめき鉄道日本海ひすいライン 市振駅-直江津駅 59.3km

北陸本線はかつて「特急街道」と言われたほど多くの特急列車が走っていた。新幹線はそれらの特急列車を置き換えたのだが、地元民にとっては特急よりも普通列車が大事だ。北陸本線がぶつ切れになって途中駅で乗り換えになるなどというのはとんでもない話だろう。とくに金沢駅-富山駅間のように利用客の多い区間では大問題だ。そのため、これら新鉄道会社の列車運行においては相互に乗り入れをして、北陸本線当時に近い運行で乗客の便宜を図っている。
関連サイト

あいの風とやま鉄道線の入口。JR高山本線利用の場合もこの改札からはいる。現在工事中で、仮設のきっぷ売り場だ。ここで入場券を買ってはいってみる。
今現在、高岡・金沢方面のホームは高架化されて完成しており、魚津・黒部方面は地上ホームとなっている。

高架ホームは1面3線構造。
2番のりばは切り欠きホームで、JR高山本線の特急「ワイドビューひだ」が発着する。1番・3番のりばは高山本線の列車も発着する。

地上ホームは2面3線。停車中の電車は泊行き。主力の521系はJR西日本からの譲渡車両。

新幹線ホームから見た在来線高架ホーム 停車中の列車はIRいしかわ鉄道から乗り入れてきた金沢行き 521系電車

手前の列車は高山本線猪谷行き JR西日本のキハ120形
鉄道総合サイト:「鉄道少年のなれの果て」
関連サイト:「金沢・特急街道」
動画:「富山市内電車」