JR鶴見線
JR鶴見線は鶴見駅(横浜市鶴見区)と扇町駅(川崎市川崎区)を結ぶ全長7kmの本線に、途中の安善駅で分岐して大川駅(川崎市川崎区)に向かう大川支線(1.0km)と、浅野駅で分岐して海芝浦駅(横浜市鶴見区)に向かう海芝浦支線(1.7km)を含めた路線である。沿線のうち鶴見から弁天橋あたりまでは居住地区だが、その先の大部分は工業地帯を走り、この区間の利用者は工場の従業員がほとんどという。

鶴見線といえば京浜地区にありながら、ついこの間までは使い古された電車が最後にまわされる線区としての印象が強い。この鶴見線の浜川崎駅と南武線の尻手駅を結ぶ南部支線という路線も同じようで、往年の通勤電車の代表であった101系の終焉の地が南部支線であった。どうもこのあたりの線区はそのような扱いを受け続けてきたらしい。我が家の墓所が総持寺にあるので、鶴見は昔からよく来るところだが、鶴見駅を出て古いコンクリートの高架線をチョコレート色の電車(ひどく昔だが)や、そののちの黄色い電車がゴトゴト走る様子はたしかにローカル線そのものだった。しかし最近、この路線にもやっと近代化の波が押し寄せてきた。車両は鶴見線専用の205系が投入された。といっても、これもかつて山手線を走っていた205系を改造した更新車だが、ちゃんと専用の番号(1100番台)まで与えられ、鶴見線カラーも鮮やかに登場したのである。

なんべんも鶴見には来ていながら鶴見線にはこれまで乗るチャンスがなかった。実はこの路線には名所があることがよく知られている。それは海芝浦支線終点の海芝浦駅のことである。この駅は一般人は利用できない。というのは駅そのもが東芝京浜事業所構内にあり、改札を出られるのはこの事業所の従業員や関係者だけだからだ。しかしそれだけであればなにも有名になることもないのだが、ちょっと珍しいところに位置しているのだ。それは、ホームが海(といっても京浜運河だが)に面しているのである。駅名もそれから来ていると思われるが、このような駅はあまり例がないというので有名なのである。秋の彼岸の墓参の帰りに思い立って行ってみた。(2007.09.22)

鶴見駅
鶴見線の鶴見駅は高架駅で、地平を走る横須賀、京浜東北、東海道線の西側にある。→関連ページ
この高架線でしばらく東海道線などに並行したあと、オーバークロスして東(写真左)に向かう。
ホームはアーチ型の天井を持つ、古い時代の雰囲気のある構造をしている。
JR205系電車。2004年ごろから投入され、3両編成で運転される。1100番台の車両番号で他線と区別する。かつて山手線を走っていた車両で、正面のデザインを変えるなど、近代化された。黄、白、青の帯はラインカラー。
正面の行先表示は行先別に次のように色を変える。
・海芝浦ゆき:緑色(写真)
・大川ゆき:橙色
・扇町その他ゆき:赤色
・各方面からの鶴見ゆき:橙色

駅に着いたら電車は発車したばかりだった。時刻表を見ると、土曜日のこの時間帯は扇町ゆきと海芝浦ゆきが30分間隔で交互に発車するので、へたをすると海芝浦ゆきは1時間待つ羽目になる。しかし、さっき発車したのは12:00発扇町ゆきで、次は12:30発の海芝浦ゆきだった。まことにラッキーだったが、それでも30分近く待たねばならない。しかたがないので駅の様子を撮ったり、海芝浦駅で引き返すにあたって、乗車券をどうすればいいのかを駅員に訊いた。東芝関係者用の自動発券機やSuicaの簡易改札機があるのでそれを使ってくれとのこと。要するに一般乗客は駅を出られないということだけのようだ。
そのうち、12:10頃には早くも海芝浦ゆきの電車が入線してきた。発車まで20分近くもある。ずいぶんのんびりしているなとは思ったが、その間に京浜東北線からどんどん乗り換えてくる。座席の8割方が埋まったところで発車したが、途中駅の鶴見小野、弁天橋でおおかたの人が降りてしまい、本線と分岐する浅野駅では残ったのはほんの十数人くらいになってしまった。浅野駅は急な右カーブとなっていて、すぐに左側に旭運河が寄ってくる。次の新芝浦駅は一般客が利用できる最後の駅となる。すでにここからホームは運河のほとりである。このさき線路は単線になって大きく右に回り込むと、すぐに終点海芝浦駅に着く。鶴見からの所要時間は10分ちょっと。電車は13:00に鶴見に向けて折り返す。降りた乗客のうち何人かは東芝事業所にはいっていったが、残りの10人くらいは私を含めてまったくの見物人ということになる。彼らは一様にカメラを携えている。

海芝浦駅
電車を降りるとこの通り。ホームの足もとまで海が迫っている。思わず息をのむ。
水辺を走る鉄道はほかにもあるが、線路やホームと水際には少なくともなにがしかの隔たりがある。このように水面がすれすれにきているところはほかに例がないと思われる。隔てるものが鉄柵だけというのが心もとない。
正面はひろびろと開けている。正式には海ではなく京浜運河だが、広さから見ても海といって良い。つり橋は首都高速道のつばさ橋。
反対方向を望む。水がそばまできているヒタヒタ感がなんともいい。
台風や冬の北風の強いときなどは大変らしいが・・・
鶴見方向を望む。線路は東芝の敷地の中を走る。道路と線路の間は簡単なロープで仕切ってあるだけで、ほとんど東芝の私設鉄道のようなものだが、地代はどうなっているのだろうか。
駅先端にある東芝京浜事業所入口。実際は守衛所で、東芝関係者しか入場できないので、見物人はここで引き返す。
この事業所の正門はひとつ手前の新芝浦駅の正面にあって、通常の来訪者はそこを利用することになる。この海芝浦は各工場への近道として設けられたものと思われる。
簡易Suica改札機が設置されている(左が出場用、右が入場用)。
見物人もこれを使って改札する。切符の場合はここまでの切符を設置された箱にいれて、自動券売機で帰りの切符を買うことになる。
電車は折り返し鶴見ゆきとなる。20分近く停まっているので、その間見物人たちは十分写真を撮ることができる。
また、この駅から東芝関係者が何人か乗り込んだが、なかには発車を待つ間、車内で弁当を広げている人がいた。なんとものんびりした雰囲気が漂う。
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