蘊蓄・鉄道コラム
J-TRECに1000系の末路を見た

横浜市金沢区大川、ここには京浜急行の金沢検車区があって、たくさんの電車が留置され、その脇の複々線線路をひっきりなしに京急の電車が駆け抜ける。線路に沿って通る道路からは金沢文庫駅と金沢八景駅も見渡せて格好の電車ウオッチポイントとなっていて、鉄道マニアにはよく知られているところだ。しかし、この場所はもうひとつ、マニアにとって重要な見どころがある。線路から道路を挟んだ反対側、そこには鉄道車両会社があるのだ。その名も「東急車輛製造」。。。だったのだが、2012年4月1日にJR東日本の子会社となり、「総合車両製作所(J-TREC)」という、あまり面白くもない会社名がつけられてしまった。
鉄道マニアにとって車両メーカーは興味津々の存在である。鉄道会社各社の新しい車両が製造され、落成すると工場から搬出のために姿を現す。各社の車両基地まで輸送が行われるのだが、鉄道線上を機関車にけん引されて運ばれるほか、大型トレーラーに載せられて道路上を運ばれることもある。その一部始終を目当てに鉄道マニアが押しよせるのだ。

車両メーカーはどういうわけか、中部から関西に多く、関東では東急車輛が唯一の車両メーカーだった。そのため、関東圏のマニアが集中してやってくることになり、車両の搬出日には周辺は大変な混雑になるらしい。工場からの搬出用の線路は京急の線路に接続していて、そのまま金沢八景駅から逗子線にはいって約4Km走り、神武寺駅から先は専用線にはいってJR逗子駅でJR横須賀線につながっている。逗子駅までは車両メーカーが運び、その先はJR貨物会社が各地に向けて運ぶのである。
JR在来線は軌間が狭軌(1067ミリ)のため、工場から出た新車両は標準軌車両であってもすべて狭軌用の台車をはいている。京急は標準軌(1435ミリ)のため神武寺駅までの上り線を3本レールとして狭軌車両でも走れるようにしている。因みに京急の車両はそのまま工場に出入りできるのでJR貨物の輸送は不要である。このようにマニアにとってオモシロイものがたくさんあるため、人気のスポットとなっているのである。 当然会社側としては機密保持や危険防止のために立ち入り禁止や撮影禁止を謳っている。とくに新型車両は車両メーカーの機密というよりも注文した鉄道会社の機密事項だろうが、自動車などと違い、図体の大きな鉄道車両は隠せず、どうしても目撃されてしまう。先頭車の先頭部分だけをカバーで覆っているケースもあるがあまり効果を上げていないようだ。


新しく掲げられた社名。見える建物は横浜市立金沢高校。

工場敷地はこの奥に広がる。構内への引き込み線のゲートは普段は閉められている。 構内撮影禁止とある。左に新幹線0系の先端部分。

1067ミリと1435ミリの軌間に対応するため3線軌条となっている。

道路を横断。 左の門は金沢高校の正門。

京急の線路との接続点。 このまま線路は金沢八景駅の横を通って逗子線線路に合流する。

まだ「東急車輛前」となっているバス停
車両メーカーは新車両を造るばかりではなく、改修や廃車の作業も行う。そのため、はるばる遠くから運ばれてくる車両が入場することがある。さきごろ引退した東急1000系電車もこの工場に送られてきたと聞いていた。この日J-TRECの正門から奥のほうを覗いたら、なんと!編成を解かれた1000系車両がずらりと並べられていたのである。改造なのか廃車解体なのかわからないが、つい1か月ほど前には元気に走っていた電車がいまや生まれたところに戻って最後の審判を待っていたのだ。なんとも哀れな姿に寂しさとともに胸が痛む思いだ。

編成を解かれて並べられた7台の1000系車両。 手前の車両は1251号車で、床下機器類や台車はそのままと見られるが、8両編成から短編成化などを行った結果の余剰車両かもしれない。

そうなるとおそらく解体となる可能性が高い。 なにやら芋づる式に捕われたような光景は痛々しい。
(2013.05.07)
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