世界の車窓から

先日、勇退記念として有志の方々に「世界の車窓から」のDVDをいただいた。

「世界の車窓から」はテレビ朝日の有名な長寿番組で、ほんの5分ほどのあいだに世界中の鉄道を紹介するというものだが、ほぼ毎日放映されていて楽しみにしている。その映像をひとまとめにして「世界一周鉄道の旅〜5大陸55ヵ国列車の旅」という11枚組のDVDアルバムになった。

さっそく鑑賞させていただいた。

感想をひとことでいうと、どこの国でも鉄道はひとびとに親しまれる存在だということである。そして、どの列車も乗っている人たちの表情は明るく、列車を信頼して身をゆだねている。世界中にはそれこそいろんな列車が走っている。超豪華な特急列車もあれば、窓ガラスもない貨車同然の車両に屋根まで鈴なりになって、でこぼこの線路を大揺れで走る列車もある。しかしどんなに古くてボロの車両でもいきいきと走る。ボロだからといって卑屈な走り方はしない。むしろ古くてもこんなにがんばっているのだ、という意気込みが伝わってくる。実に人間的である。


各大陸の鉄道
・ヨーロッパの鉄道はよく整備されていて、美しい風景のなかを颯爽と走る。
アルプスの登山鉄道では、しゃにむに山腹を這い上がり、トンネルをつき抜けて3500mを超える山の頂上に到達する。スイス人の頑固さのようなものを感じる。
ヨーロッパは全体に豊かさを感じさせる。豪華列車の乗客の多くはすでに一線を引退した年配のひとびとで、まさに悠々自適の風情である。
ヨーロッパではとくに国際列車が発達している。地続きで線路がどこでもつながっていて、ごくあたりまえの感覚で国際列車が走っているのは日本人としてはなかなかピンとこない。東欧諸国もEUに加盟したことで、ますます国際列車も盛んになるのだろう。

・アジアはどこでも人の多さと、ものすごい活気と喧騒のなかをかきわけて走る。
だいたいがヨーロッパのような、旅をする、というより生活のための移動で列車を利用することが多いように見える。だから、荷物がすごい。そして座席の争奪戦もすごい。いまのところ、インドに「ロイヤル・オリエント・エクスプレス」という豪華列車があるくらいで、ほかでは豪華列車はほとんどない。
北京からカザフスタンを通ってモスクワまでの9173kmを走破する国際列車に乗ると、1週間くらいかかる。とおしで乗る人は忍耐を覚悟しなければならない。

・アフリカの鉄道は南ア共和国が突出している。
南アフリカ共和国の「ブルートレイン」は「走る高級ホテル」といわれる超豪華列車である。乗客も上流階級のひとびとで、この国の豊かさを象徴している。
もともと鉄道の少ない大陸で、エジプト、ケニア、ウガンダなど観光資源のあるところは、それなりの鉄道があって、外国人の観光客などでにぎわっている。

・北米大陸は自動車優位でちょっと鉄道の影は薄い。
アメリカは建国以来、鉄道の伸長とともに発展してきたが、自動車が陸上交通の主役に変わってから鉄道には力をいれていない。それでもAmtrakという特急列車が主な幹線を走り、主要都市間を結んでいる。もう15年くらい前に、ボストンとニューヨークの間をAmtrakで往復したことがあるが、速度もそれほど速くなく、保線が十分行われていないらしくて乗り心地もよくなかった。そのためか、ときどきAmtrakの脱線転覆事故が起きる。
カナダにも大陸横断鉄道があるが、旅客よりも貨物優先で、貨物列車をやり過ごすためにしばしば待たされるそうである。
メキシコは、マヤ・アステカの古代遺跡などの観光路線があってにぎわっている。

・南米大陸はそれこそバラエティに富んだ鉄道の宝庫。
マチュピチュの遺跡をめざして海抜3000mをうねうねと崖っぷちの線路を登ってゆく観光列車はかなりこわい。それにしても、なぜあんなところに都市国家があったのか。そして忽然と消失した住人たちはどこへ行ったのか。インカの謎は永遠に解けないのだろうか。
標高2850mにあるエクアドルの首都キトから、海抜ゼロメートルのグアヤキルまでを一気に下る鉄道がある。ここでは客車の屋根の上も乗ることが許されていて、乗客が鈴なりになっている。保安のために車掌が何人も屋根に仁王立ちになって、垂れ下がる電線や急カーブを事前に乗客に知らせる。見ていてハラハラするし、その滑稽な光景に笑ってしまう。
アジアでもそうだが、列車は沿線住人にとっては商売の重要なお得意さんである。駅に列車が着くたびにどっと群がって商売が始まる。

・オーストラリアは豪放、ニュージーランドは繊細。
オーストラリアはなんといってもインディアン・パシフィック大陸横断鉄道である。シドニーとパースの間4352kmを3泊4日かけて走破する。途中に世界で一番長い直線区間がある。その距離はなんと478kmもある。この区間はナラボー平原という荒野にあるが、山も川も谷もないため、大胆に直線を引いたのだそうである。残念なことにはこのDVDではオーストラリアのシンボルであるエアーズロックは紹介されていない。
一方、ニュージーランドはヨーロッパ的である。車両も沿線もきれいだし列車の速度も速い。インバーカーギルという「世界でもっとも南極に近い町」が印象的。近いといっても南極までは4840kmもあるが。

都市部の通勤列車などの紹介はほとんどなかったので、長距離列車主体になるが日本の鉄道と比較すると、ヨーロッパはともかく、ダイヤが守られないほうがあたりまえ、という国が多い。おおらかというか無神経というか、日本の鉄道からは想像しにくい。また、ひとびとがたくましい。何日も狭い社内で揺られながらよく食べる。だから食堂車がついていて、ちゃんとした料理人も給仕も乗っている。日本では列車の速度を上げて速達性を追求するあまり、食堂車は廃れるいっぽうである。そのかわり、世界に冠たる駅弁がある。

以上、実際に行って見てきたかのようなことを書いたが、事実そういう気分になる。やはりDVDの威力か。こういうものを見ると、やっぱり鉄道はいい!と思うし、すぐにもカメラをかついで出動したくなる。
そのうち、いつの日か南米あたりに行くとして、それまでは国内の鉄道を撮りつぶことにします。