記念Suica騒動

いわゆる鉄道マニアとか鉄道オタクと言われる連中の行為が世間の眉をひそませる原因になることが多い。もちろん世にたくさんいる鉄道好きすべてではなく、一部の年少者やジコチュー者たちの所業のことである。簡単に言えば一般人に迷惑になるような行為である。多くは駅のホームや沿線の線路際に押し寄せて鈴なりになって列車の写真を撮るのだが、駅員や保安要員の制止を聞かず、そのために一般利用者の迷惑になっているのだ。ところが、必ずしも鉄道マニアだけの所業だけではない騒ぎが起きた。

2014年12月20日は東京駅開業100周年にあたる日であった。JR東日本ではそれを記念したSuicaを東京駅で15000枚の限定販売したのだが、それを買い求めようと販売開始時点でなんと9000人が押しかけた。長蛇の列は丸の内口から高架線路に沿って北方向に延び、高架下をくぐって東側の日本橋口までの約800メートルに達したという。しかも歩道から溢れて車道の1車線を埋めたため、危険な状況となった。駅構内の販売所では行列が乱れ、押し合いへし合いとなった。JR側は構外の行列も含めて危険な状態と判断し、2時間半後に販売中止を決断した。そのため買えなかった群衆が駅員に詰め寄り罵声や怒号が飛び交う大混乱になった。

結局8000枚ほどを販売したところで中止になったのだが、たしかに目の前で打ち切りになって買えなかった人は怒り心頭だろう。
こんな状態なったのは当然ながらJR側の不手際で見通しの甘さが指摘されている。駅の外の行列を整理する保安員もおかずほったらかしだったために行列は崩れ、一斉に駅構内に押し寄せたという。道路に群衆があふれるに及んで警視庁が警察官80人を出動させて道路の整理にあたった。JRでは以前東京駅復原記念の2回のSuica販売のときは問題がなかったため今回も同様と踏んでいたと言っている。

しかし、今回は以前とは状況が違っていたようだ。100周年という歴史的な意味合いもあってそのカードにはプレミアムがつくと期待した人間が転売目的をもって押しかけたのである。その分人数が増えたのだ。

当初、大混乱になったとのニュースを見たときには、また鉄道オタクたちか!と思ったのだが、実はそれ以外にひともうけしようという人間たちがたくさんいたのだ。罵詈雑言を浴びせたりしていたのはこの連中だったのか!と妙なところで納得した。

同じようなことはほかにも起きている。毎度有名なのはiPhoneの新機種発売だ。つい最近も中国人の割り込みで混乱したが、これも転売目的で大量に買い込むために行列などまったく無視の傍若無人の中国人が殺到したのだ。もちろん日本人にも転売目的はいるが、行列に割り込むような例は少ないだろう。このiPhone発売のときには毎回、必ず発売日より何日も前から並びだす人間がいる。徹夜しながらその日を待つのだが、それがやはり行列になって発売開始時刻には何百人と並んでいるのだ。このような人にとっては後からきて行列に割り込んでくる人間を許せないのは当然である。

ところが、今回の記念Suicaの発売では、JR側は「徹夜しての行列は認めない」と明言していたのだ。にもかかわらず、やはり抜け駆けで徹夜する人間はいた。この連中に対して、ルール通りに夜が明けてからやって来て結局買えなかった”正直者”たちが不満を持つのも当たり前である。

上記のiPhone徹夜組はズルくないが今回の徹夜組はルール破りのズルいやつらとなる。JRは徹夜を禁止した以上、ルール破りに対する対策を考えておくべきだったが、何もしなかったというのが今回の大混乱の最大の原因とみて良い。もっとも、どこまでを徹夜組とするか、といった問題もあるだろう。数に限りがあるとすれば、品切れになって買えなくなることを恐れてできるだけ早く行こうとするのは人情である。それが高じて徹夜組になるのだ。それをいけないというのであれば、駅での販売ではなくインターネットや郵送という方法があるのだが、おそらくJR東日本としては人を集めることで新装なった東京駅内の商業施設に誘導したい、というちょっとスケベ根性が働いたのではないかと勘ぐっている。

今回の出来事には、せっかくの東京駅開業100周年の記念日に大きな汚点を残したという批判が多い。だがJRはたしかにミスがあったが、混乱の増幅を避けるために販売中止に踏み切ったことは正しかったと思う。押しかけた群衆は趣味道楽で集まったのである。たまたま運が悪くて買えなかったのに過ぎない。失敗したよと笑い飛ばせばいいし、仲間うちでの語り草とすればいい。JRも失敗したなと自覚していて現場では謝ったのだ。残りのSuicaの販売方法についても明示した。マスコミがこれ以上大騒ぎしてJRをたたくような問題ではない。

JR東日本ではその後、販売方法をインターネットまたは郵送方式で希望者全員に販売することにした。これにより本当に欲しかった人は手に入ってハッピーだろうが、プレミアムが大幅に下がって当てが外れる格好になる転売目的の人には買う意味がなくなることになる。しかしそういう人にとってはもともとバクチと同じなのだからそれでいいのだ。

このような騒ぎを見るにつけ日本の平和ボケは深刻だと思う。わずかな食料を受けとるために配給所に押しかけるアフリカのある国の群衆のことを考えれば、なんというノ−テンキな騒ぎなのかと思う。
(2014.12.24)