バーチャルトリップ

このところ、バーチャルトリップ(行ったつもりの旅)を楽しんでいる。なにかというと、鉄道の車窓風景を記録した映像を楽しんでいるのである。といってもテレビ番組ではなく、動画サイトのYouTubeに投稿された映像である。YouTube(”ようつべ”とも)には世界中からおびただしい数の動画が刻々と投稿され続けている。それは1分あたり48時間分(2011年)という途方もない数字である。これらを収容するサーバーの台数とディスク容量とはいったいどれくらいか、想像を絶する。
投稿された動画の内容はそれこそ多種多様であり、なんでもありの世界である。そのため、なかにはトラブルを引き起こすようなものもあり、実際に国際問題のタネになることも多発している。
動画は静止画などよりも見る者を納得させる力が強い。まさに「百聞は一見にしかず」である。しかし、動画サイト上ではそれがホンモノかどうかは保証されていない。ウソに惑わされたとしても尻の持っていきようがない。結局は見る側の責任で判断するのがインターネットの鉄則なのだ。

前置きはさておいて、YouTube上には当然ながら鉄道ものの映像も非常に多く投稿されている。世界中の鉄道ファンらによる力作が目白押しだ。列車の走行する様子を線路際や駅のホームから撮ったものや、車内からの車窓風景を撮影したものが主力だが、なかでも先頭車両の運転席後ろに陣取って撮影する、いわゆるカブリツキ映像がきわめて楽しい。カブリツキは一般車両では運転席の仕切りのガラスを通して前方の線路を眺めるのだが、一部の特急列車では先頭車両に展望席を設けていて、ゆっくり座って前方の景色を眺められるようにしている。このような席はだいたい優等指定席で、一般車両のように自由に入り込むわけにはゆかない。そんな席から特急列車の始発駅から終着駅までを全線にわたって記録した映像も少なくない。なかには5時間を超えるような大作もある。このような場合は映像を20以上の短編に分割してあり、これを始めから続けて再生するとその列車に乗ってカブリツいている雰囲気満点なのである。しかもフルHDの高画質大画面で臨場感も最高だ。
撮影にあたっては、特急列車の展望席では座っていられるが、一般通勤車両の場合にはずっと立ちっぱなしになる。さすがに5時間のロングランはないがそれでも2時間くらいの中距離列車は多い。カメラは吸盤などでガラスに固定するのだろうか。ブレもなく安定している。
私もカブリツキ撮影の経験はあるが、15分くらいで厭になってしまった。それにひきかえ、わざわざ優等料金を払い、カメラのバッテリーや記録メディアの管理をしながら5時間以上もひたすら撮り続けたり、周囲の目を気にせず立ちっぱなしでがんばる撮影者諸氏の熱意にはまったく頭が下がる。

このような動画はダウンロードできるので、PCに取り込んで鑑賞するとまさにバーチャルトリップを堪能できる。これで、あまり乗る機会のない「スーパーはくと」や「オーシャンアロー」、「スーパーくろしお」、「特急やくも」、「ワイドビューしなの」、「ワイドビュー南紀」、「ワイドビューひだ」などに乗って沿線風景を楽しんでいる。そのほか、ローカル鉄道の動画もたくさんアップされている。単行の気動車の先頭に陣取って、山あり谷ありの線路を一生懸命走るさまを感じるのが楽しい。将来そのようなところに行く際に、そこがどんなところかを予めイメージできるという利点もある。現に、昨年伊勢方面に行ったときに、あらかじめ近鉄の名古屋駅から宇治山田駅までの映像を見ておいた。すると実際に乗った特急列車から見る景色が一味違うのだ。初めて来たところなのに、もうすぐ鉄橋を渡るぞ、とかJR線が接近してくるぞ、といった情報がすでに頭にはいっているからだ。

近頃はTVなどでも鉄道ものの番組が多いが、一般向けのため沿線の案内やら温泉に浸かったり食べるシーンなどが主力だ。だから愚直にひたすら線路を走ろうと思ったら動画サイトの動画に限るのである。きょうもまた、どこか面白そうな路線を探して、”行ったつもりの旅”にでかけよう。(2012.09.18)
鉄道総合ページ:鉄道少年のなれの果て