新興国の鉄道建設

報道によれば、インドネシアで検討されていた高速鉄道の建設計画が撤回されたということだ。日本と中国からの提案が競争になっていたのだが、両方ともダメになったという。その理由というのが「ジャカルタとバンドン間約150kmに時速300km/h超の高速鉄道はいらない、むしろ200km/hまでの中速鉄道でよい」というものだ。はじめからそういえばいいのに・・・と思うが、日中両国ともに、自国の新幹線や高速鉄道の売り込みだけに頭がいっぱいで、しゃにむに突っ込んでいったのを見事に肩透かしを食らったというところだろう。しかし、ホントのところはインドネシア政府はカネを出したくないというのだ。新興国ではよくある話で、相手にできるだけ負担を強いて自分はほとんどなにもしない、ということだ。この手に乗ってひどい目にあった日本企業の話はよく聞く。新興国相手の商売は一筋縄ではいかないのだろう。

しかし、考えてみるとインドネシア側の言い分もわかる。つまり150kmくらいの距離では時速300km/hの鉄道はもったいない。当然運賃も高いそんな列車に乗って30分で行かなければならないような需要はどれだけあるのかということだ。

一方、ジャカルタとその近郊の鉄道では日本の中古電車がたくさん導入されて活躍しているという。それも10両編成列車のほとんどが満員の乗客を乗せて頻繁に走っているのだ。日本製の中古電車はまだ比較的新しく、きれいで性能もいいので新興国からは引っ張りだこだそうだ。人口の集中している都市部ではこのような電車が必要で、市民の日常生活の足として重要な役割を果たしているのである。

だが、都市間交通となると話は違ってくるのだろう。それほどの需要は見込めず、巨額の高速鉄道を造っても不採算になることは目に見えている。要するに、高速鉄道ではオーバースペックなのだ。「中速鉄道で十分」というからにはインドネシア側もそれはわかっていたはずだった。にもかかわらず、はっきりと伝えなかったのには何か思惑があったのかもしれないが、それはわからない。

日本側も新幹線一本やりで突っ込んだことが裏目に出た感じだ。日本の新幹線が50年かけて培ってきた技術力と安全性はだれが見ても納得するだろう。できることなら自国にも造りたいと考えるだろう。「いいものは売れる」というのは確かだが、今回は「いいもの」すぎることが逆に断る理由にされてしまった。根底には総工費6000億円超はあまりに高いとの判断が透けて見える。中国の提案も7000億円超という。もちろん日中両国とも資金の支援なども含めての提案だったらしいが、やはりカネの問題は最大の留意点だ。上述のように新興国ではとくに留意すべきだ。

インドネシアでは「中速鉄道建設」について改めて公募するという。日本も多数の中古電車を使ってもらっている立場からもぜひ応募すべきだ。そしてこの事実を利用すべきだ。当然、在来線の技術力と安全性は新幹線に劣らない。地道に在来線レベルの建設に参加することから、やがて新幹線につながるかもしれないし、そのように努力すべきだ。ほかの新興諸国にも共通する話である。
(2015.09.06)