新興国の鉄道建設−後日談

やっぱり出来レースか!としか思えないような結末であった。
撤回したはずのインドネシアの高速鉄道計画がまた復活して、直ちに中国案を採用したというのだ。報道によれば、白紙撤回の直後に中国側が修正提案をしたという。それはインドネシアの政府の財政負担を一切求めないというものだ。要するに、タダで造ってあげますよ、ということだ。

想像逞しゅうすると、これはもともと仕組まれたストーリーだった疑いが濃い。はじめから中国がインドネシア政府の財政負担なしの案を内密に提示していたのだろう。しかしインドネシア政府としては一応日本の顔をたてるため一般入札の形をとって、工費が高いことを理由に日中の提案を両方とも蹴り、高速鉄道計画そのものを撤回した。そのかわりに中速鉄道なるものを持ち出して、新線建設の意欲は見せるような形にした。インドネシア政府の高官が、「インドネシア政府の財政負担を求めないことが条件だ。最初の時点で日本の提案は落選だ」などと言っているのは完全にあとづけの理由だ。

日本側は官民あげての売り込みだったが、やはりインドネシアと中国というアジアの国のしたたかさに敗北した。というより、まともなビジネスの態をなさないまま負けたのである。インドネシアは友好国であるという過信も指摘されている。アジアの諸国はかつての植民地時代の宗主国から受けたひどい仕打ちを梃に、自国が絶対に不利にならないように鍛えられている。だから、いくら友好的であっても日本的な浪花節調の義理人情に流されることはない。これがしたたかさだ。

鉄道建設は巨額の費用がかかる。完成後も運営や保守などで手間のかかるものだ。したがって、経済的な問題のある国にとっては資金の調達はもっとも大きな関心事で、技術だの品質だのは二の次となる。どうやら日本の場合は資金調達は二の次で、とにかく新幹線の優秀性を全面に押し出すことばかりの方法が敗因だったのだろう。日本側の資金調達案は円借款だったという。つまり貸付である。長期・低金利で資金を貸すのだが、当然供与される国は返済の義務があるので財政負担が生ずる。しかもインドネシア政府の債務保証を求めたのである。これが嫌われたのだが、そうかといってタダにするわけにはいかない。そこはしっかり筋を通すべきだ。

中国がどのような形で債務保証なしで資金調達をするのかは不明だ。しかし中国にはたとえ無償であっても受注しなければならない事情があるという。いろいろな情報から見えるのは、すでに中国国内の高速鉄道では必要な路線の建設は終わったということだ。とくに経済成長の鈍化によって取りやめになった路線もあるのだろう。計画縮小によって余剰になった人的資源や建設資材、車両製造などの在庫は大きく、これらを海外に振り向けるためにどんな商談にもなりふり構わず食い込んでくるというのだ。資金面においてもなにか中国特有のカラクリがあるのかもしれないが、このような形になってしまっては常識的なビジネスルールは通用しない。

今後もこのようなことが続けば、そのたびに敗北して新幹線そのものの評価が落ちてゆくことは十分考えられる。新幹線をはじめ日本の鉄道技術やシステムの優秀さは十分知られている。それよりもまずはカネの問題をどうするかが新興国相手の商談では最優先であることを今回の”事件”で思い知らされた。
(2015.10.01)

報道によれば、インドネシアで検討されていた高速鉄道の建設計画が撤回されたということだ。日本と中国からの提案が競争になっていたのだが、両方ともダメになったという。その理由というのが「ジャカルタとバンドン間約150kmに時速300km/h超の高速鉄道はいらない、むしろ200km/hまでの中速鉄道でよい」というものだ。はじめからそういえばいいのに・・・と思うが、日中両国ともに、自国の新幹線や高速鉄道の売り込みだけに頭がいっぱいで、しゃにむに突っ込んでいったのを見事に肩透かしを食らったというところだろう。しかし、ホントのところはインドネシア政府はカネを出したくないというのだ。新興国ではよくある話で、相手にできるだけ負担を強いて自分はほとんどなにもしない、ということだ。この手に乗ってひどい目にあった日本企業の話はよく聞く。新興国相手の商売は一筋縄ではいかないのだろう。

しかし、考えてみるとインドネシア側の言い分もわかる。つまり150kmくらいの距離では時速300km/hの鉄道はもったいない。当然運賃も高いそんな列車に乗って30分で行かなければならないような需要はどれだけあるのかということだ。

一方、ジャカルタとその近郊の鉄道では日本の中古電車がたくさん導入されて活躍しているという。それも10両編成列車のほとんどが満員の乗客を乗せて頻繁に走っているのだ。日本製の中古電車はまだ比較的新しく、きれいで性能もいいので新興国からは引っ張りだこだそうだ。人口の集中している都市部ではこのような電車が必要で、市民の日常生活の足として重要な役割を果たしているのである。

だが、都市間交通となると話は違ってくるのだろう。それほどの需要は見込めず、巨額の高速鉄道を造っても不採算になることは目に見えている。要するに、高速鉄道ではオーバースペックなのだ。「中速鉄道で十分」というからにはインドネシア側もそれはわかっていたはずだった。にもかかわらず、はっきりと伝えなかったのには何か思惑があったのかもしれないが、それはわからない。

日本側も新幹線一本やりで突っ込んだことが裏目に出た感じだ。日本の新幹線が50年かけて培ってきた技術力と安全性はだれが見ても納得するだろう。できることなら自国にも造りたいと考えるだろう。「いいものは売れる」というのは確かだが、今回は「いいもの」すぎることが逆に断る理由にされてしまった。根底には総工費6000億円超はあまりに高いとの判断が透けて見える。中国の提案も7000億円超という。もちろん日中両国とも資金の支援なども含めての提案だったらしいが、やはりカネの問題は最大の留意点だ。上述のように新興国ではとくに留意すべきだ。

インドネシアでは「中速鉄道建設」について改めて公募するという。日本も多数の中古電車を使ってもらっている立場からもぜひ応募すべきだ。そしてこの事実を利用すべきだ。当然、在来線の技術力と安全性は新幹線に劣らない。地道に在来線レベルの建設に参加することから、やがて新幹線につながるかもしれないし、そのように努力すべきだ。ほかの新興諸国にも共通する話である。
(2015.09.06)