蘊蓄・鉄道コラム
鉄道員の情けない話

さきごろ、立て続けに電車の運転士が乗務中に不適切な行為をした、ということが報道された。それらはいずれも目撃者によって鉄道会社に苦情として通報されたもので、会社が調査の結果、事実を認めて公表したのである。行為そのものはどちらかというと、乗務中にはいかがなものかという部類のものである。

■JR東海の東海道新幹線で、運転士が両足を運転台にあげて運転していた件。
つまり、机の上に両足をあげて椅子の上にふんぞり返っているようなことだろうか。オフィスでこのような恰好で電話をしているシーンをテレビドラマなどで見かけることがある。そんな恰好でよく運転できると思うのだが、クルマと違って操舵の必要がないうえに、ATCによる走行管理がされている区間では可能なのかもしれない。普通、新幹線の運転台は覗けないのにどうして発覚したのか不思議に思っていたら、なんと!外部から撮られた走行写真で露見したというのだ。おそらく密室なので誰にも見られないと高をくくっていたのだろう。高速で疾走する新幹線を写真やビデオで撮影する人はゴマンといる。高性能のカメラや高度な撮影技術によってこのようなものが写り込むことは十分考えられる。
当人は「リラックスしたくて足を伸ばした」そうだ。JR東海では処分を検討するというが「足あげ運転」とはなんとも非常識極まる行為だ。近い将来、クルマの自動運転が本格的になると、高速道路上のクルマでこんなことをするようなバカが続出するかもしれない。

■JR東日本の総武線通勤電車で、胡坐をかいて運転していた件。
靴を脱いで運転席で複数回にわたって胡坐をかいていた、というものだが、本人は足の裏の土踏まずを蚊に刺されて痒かったので胡坐をかいて運転していた、という。運転台の後ろから乗客が目撃したものらしく、写真も撮っていた。
この記事を読んだときは思わず笑ってしまった。たしかに痒みは痛みより我慢しづらいものだ。つい掻きたくなることはわかる。足元には警笛を鳴らすペダルがあるが、いざというときには足をおろせばいいので安全性に支障はないものの、JRとしては胡坐をかかないよう注意したという。

■JR東日本の総武線で、佐倉駅に停車中の電車で運転台のドアを開けて線路に放尿した件。
放尿したのは駅のホームとは反対側のドアからだったが、たまたま外にいた人が目撃したという。運転士によれば、「我慢できなかったがトイレに行くことで電車を遅らせたくなかった。過去にもやった。」と述べた。
JRの規定ではこのような場合、運転指令室に通知の上、駅または車内のトイレに行くことを認めているというので、規律違反ということになる。JRではモラルに欠ける行為として乗務をはずし、指導するという。生理現象は個人的問題だが、頻尿の人にはあまり長時間の乗務はさせないことも必要ではないのか。

いずれの場合も情けない話だが、目撃者にとっては「目を疑うような光景」だったのだろう。要はモラルの欠如の問題で、ほかにも似たような話はいくらでもある。JR側は「お客様に不信感と不安を与えた」として平謝りの態だが、それは安全を第一とする鉄道の現場で起きたことだからだ。こうしたモラル上の問題は個人の自覚に依存するので、普段からやかましく教育する以外にない。こんな一部の不心得者のために世界に冠たる日本の鉄道の信頼性が損なわれてはならない。

一方で、最近の電車の運転室はガラス越しに丸見えである。これは運転士の不審な挙動を抑止するため、と聞いたことがある。だから規律は大方守られているのだろう。しかしそれがために運転士は乗客や鉄道マニアたちの視線やカメラにさらされて監視状態にあることが多い。当然そのストレスも小さくないはずだ。今後それによる弊害のほうも問題となって、カブリツキ撮影などが制限されるもしれない。さらに一部の鉄道マニアのモラルも問題視されているので、駅のホームや沿線での撮影にまで影響することも考えられる。鉄道マニアにも自制が必要となるだろう。
(2016.09.20)
鉄道総合サイト:鉄道少年のなれの果て