アメリカを叱る |
去年(2008)秋に始まった世界金融危機は今年になって世界同時不況へと雪崩をうって進行している。震源地は米国だが、この国の低所得層向け住宅ローンの破綻がまたたく間に世界中に飛び火したのだ。はじめは、どうして?とわけがわからなかったが、真相がわかるにつれて、アメリカという国と国民の本質的な問題が明らかになってきた。 フランスのエマニュエル・トッドさんという人口統計学・歴史学者は、いまの米国はもはや解決ではなく問題をもたらす存在である−−と断じている。腐りきった米国の金融業界は、世界中に何の価値もない証券を売りまくった。人類史上これほどひどい詐欺があっただろうか、とまで言っている。そして、今回の危機は表面上は金融問題だが、背後には経済以外の問題がある。それは社会全体を考えずに自分のことばかりを大事にする自己愛、自己陶酔の意識だ、と分析する。これはなにやら最近の日本にも蔓延しつつあることのようにも思えるが、まさにアメリカの国民的体質で、アメリカ政府も長年にわたってこのような状況を放置してきたのである。 アメリカの金融業界はさまざまな金融商品を作り上げ、世界の金融市場に大挙してなだれ込んだ。それらの商品の多くは為替や株価の変動を利用してさまざまな仕掛けで利益を生むもので、当然リスクも大きい。このためリスクヘッジをしなければならないがそれを証券化というやりかたで世界中に分散したのである。 証券化というのは金融業界が編み出した一種のリスク分散の手法で、今世紀にはいってから爆発的に使われたものである。簡単にいえば、たくさんに分けたローンなどの債権を組み合わせてひとつの証券にして売るというものである。債権のなかには当然リスクの高いものもあり、これらをどうやってうまく組み合わせるかという技術を金融工学というのだそうだ。そういえばひところ、ポートフォリオとかデリバティブなどという専門用語が盛んに飛び交っていたのを思い出す。 いま、ここに至って金融工学や証券化が悪者にされているようだが、これらは手法であってそれ自体は悪いものではない。悪いのはこれを低所得層向けの住宅ローン(サブプライムローン)というきわめてリスクの高い債権に適用したことで、しかも世界中にばらまいたことが大問題なのである。もともとお金のない人に高額のローンを組ませて住宅を買わせるという、ヤミ金まがいのことが金融ビジネスとして、長期にわたっておかしいとも思わずにまかり通ってきたうえ、政府がまったくコントロールしなかったところに悪質性がある。 そして驚いたことに、この証券化という手法は自動車ローンにまで使われていたという。GMの子会社の金融会社であるGMACという会社はGMの高額な大型車を売るために、本来そんなクルマを買えないような消費者にも簡単な手続きでローンを組ませて、その資金を販売会社に提供していたのだ。この債権をやはり証券化して大手の銀行や証券会社を通じて売ったのだが、GMのネームバリューもあってか、格付けはAAAだったというので飛ぶように売れたという。当然GMもその恩恵にあずかって本業のクルマをしのぐもうけがあったというから驚く。しかしその間に肝腎のクルマは日本やヨーロッパの低燃費車にシェアを奪われ、GMの業績はどんどん落ちていったが、さらにリースという金融の力を使って挽回を試み、やはりここでも債権の証券化でもうけを追求したという。つまり純粋にクルマを売るというよりもマネーゲームで業績をカバーしていたのである。そこにはてっとり早くもうけ、気の遠くなるような高額の報酬を手にしさえすればよいという強欲で堕落した経営者の姿がある。 そして、サブプライムローンが破綻して金融業界の信用不安から一気に金融危機に陥った。しかも世界中に売りまくったサブプライムローンの証券によって世界中の金融業界に飛び火したのだ。本当に今度ばかりはアメリカが悪い。私利私欲しか眼中にない強欲な企業経営者とそれを容認してきた政府政権の責任は重大である。 彼らはもちろん悪いことをしている意識はまったくなかっただろう。そこに根本的な問題がある。「利益を出すためには手段を選ばない」という経営手法に加えて「自由がすべて」という行きすぎた自由主義がアメリカの産業や社会をむしばんでいたことをアメリカ中がすっかり忘れていたのである。マネーゲームにうつつを抜かしてまじめに稼ごうという気をなくした国の産業が衰えるのは当たり前である。いまのアメリカがまさにそれである。 おりしも就任した新しい大統領には世界中の期待が集まっているようだが、仕事始めにこの事態を引き起こしたシステムと関係者に対する措置をはっきりさせることは必要だろう。そして地道に稼ぐことをアメリカ国民に再認識させ、世界にそのように宣誓すべきだろう。しかし就任演説ではそのようなことは言わなかったようだ。(2009.02.03) 後日の報道によると、 オバマ新大統領は今回の金融危機の張本人となった金融機関の経営陣が巨額のボーナスを受け取っていたことに対し「狭い利己主義で、なにがなんでも短期的な利益を優先する習慣だった。無責任の極み、恥ずべきことだ」と厳しく批判した。そのうえで政府支援を受けている金融機関の経営陣の報酬を減らす規制強化策を実行することを表明した。報酬削減・抑制策は財務省が発表し、救済額が大きい金融機関の経営幹部の年俸を50万ドルを上限とすることなどを指針としている。 やはり、オバマさんはちゃんと対応したようだ。こういった一連の政策がキチンと実行されて早くいい方向に進んでくれることを願うばかりだ。因みに年俸50万ドルは大統領の年俸と同額という。(2009.02.05) |