航空行政のお粗末

去年の秋ごろから我が町の上空を、西を目指すジェット旅客機が頻繁に飛ぶようになった。これは横田の米軍基地が使用していた空域の一部が返還され、そこを羽田空港発の西日本行き便が使うようになったためとわかった。望遠レンズで狙うと機体の番号がはっきり見えるほどの高度で、音もかなり大きいが苦になるほどではない。離陸したあといったん海上に出て高度を十分に上げた後、陸のほうに向かうわけだが羽田に近い大田区では高度がより低くなるので、騒音として問題になりだしているという。来年秋には羽田空港は第4滑走路ができて発着枠が拡大し、国際線も本格的に開始される。そうなると必然的に離着陸する飛行機が増えて騒音問題は再燃するかもしれない。

空港に騒音問題はつきものだが、それだけに新たな空港建設にはかならず反対する勢力が出てくる。そのため、できるだけ騒音の影響の少ない海沿いや海上に島を作って建設することが多い。ところが、30余年前に作られた成田空港は完全な内陸空港で、しかも多くの農業用地を収用して建設することになったのである。当然これには騒音もさることながら、私有地を取り上げられることに対する抵抗と不満が噴き出し、一大騒乱となったのである。反対する農民に過激な外部支援団体が加勢し成田闘争として1966年以来暴力的な活動が続いた。

その間の1978年にやっと開港にこぎつけたものの、4000メートルのA滑走路1本の暫定的な開港であった。その後も反対闘争は続き、2本目のB滑走路(2500メートル)建設に際しても反対派の農民の土地を避けるために2180メートルという中途半端な状態で、またしても暫定的共用となった。このように開港以来30年というのにまだ闘争の状態を引きずっているのである。

つい最近起きた米国フェデラル・エキスプレスの貨物機着陸失敗による炎上事故で、A滑走路は2日間にわたって閉鎖された。その間短いB滑走路では大型機が発着できず空港全体がマヒ状態となった。メインの国際空港で滑走路1本封鎖で空港がマヒするなどということは、先進国といわれる国では考えられないことである。まったく世界の恥さらしである。

この事故を受けて成田空港側では2500メートルに延長したB滑走路の供用を半年前倒しして今年(2009)10月に開始すると発表した。半年も前倒しできるならなぜもっと早くやらないのか。とにかく成田の最大のネックは滑走路が足りないことであり、その整備は最優先のはずである。今回の事故がなければのんべんだらりと放置するつもりだったのか。

世界、とくにアジアの近隣諸国では巨大空港が目白押しである。どこもハブ(国際拠点)空港を狙っているのだ。シンガポール、香港、韓国仁川空港などはすでにハブとして機能しているという。ハブ空港を持つことで国際的な人の流れや物流が増えて、経済的にも文化的にも大きなメリットがあることは言うまでもない。空港の国際的な地位も上がる。ハブ空港の要件として24時間運用があるが、いまのところ関西空港が唯一その要件を満たす。この空港をハブとして機能させればいいのだ。

ところがどういうわけか、まったく興味がないのか、成田空港の騒ぎで懲りたのか、これまでそのような議論がまじめに取り上げられたことはない。その代り国内地方空港の建設には熱心で、各県1空港などと称して日に数便程度の小空港をやたらと作った。当然それらのほとんどは赤字であるという。

成田、羽田、大阪の基幹空港を除いたいわゆる地方空港は74あり、このうち離島空港30と専ら小型機の離着陸に使用されている調布、八尾、弟子屈の3飛行場を除いた41空港のうち、ジェット機の就航できる地方空港数は29である。

離島空港はなくてはならないので、赤字になっても存続の必要はあるにしても、そのほかの赤字空港はだいたいが甘い需要予測が原因といわれる。そこにはなにやらお定まりの空港族議員などが暗躍していたのではないのか?道路にしろ橋にしろ、日本という国はかならずその建設をめぐって利権がはたらく。その結果、必要でないものを作り、ほんとうに必要なものを先延ばしにしたり、放置するのである。そしてそのツケは必ず国民にしわ寄せされる。こんなことを延々と半世紀以上も続けてきたのである。

こんななかで、また新しい地方空港が明日(2009.06.04)開港する。なにかと物議をかもした静岡空港である。開港間際になって滑走路の延長線上にある立ち木が高すぎるというので、こともあろうに滑走路を短くして運用するというのだ。そして開港までに立ち木の伐採を地権者に要請した。ところが話がどうこじれたのか、地権者は静岡県知事が辞任すれば立ち木を伐採するという条件をつけ、知事は開港させるためにほんとうに辞任したのである。こんな話は聞いたことがない。もっとも、知事は任期満了直前らしいが、自分の任期中に悲願を達成させるためだろう。この決定に沿って地権者は約束通り伐採をしたが、いったいどんなメリットがあったのだろう。たんなる抗議のための抵抗だったとすればあまりに自己中ではなかったか。もちろん、当局の詰めの甘さや話し合いの不十分さなどがあったのだろう。それにしても、もうすこしなんとかならなかったのか。理解に苦しむ。そして報道によれば、静岡空港は開港初日から乗客が集まらず、欠航する便があるとしている。早くも前途多難なスタートのようである。

いっぽう、羽田空港では来年(2010)秋に4本目となるD滑走路ができて発着枠が1.4倍になり、国際線も本格的に復活する。これを巡ってJALとANAがいまから激しいつばぜり合いをしているという。成田ではJALが国際線を牛耳っているが、羽田の国際線はANAが押さえようとしているらしいのである。さらにこれをハブ化することを目論んでいるともいわれている。そうなると、当然ながらJALは立地条件の悪い成田で不利となってくる。そのためなんとかANAの目論みを阻止しようと動き始めているという。これを行政がどのようにさばくのか、たまにはすっきりしたいい答えを出してもらいたいものだ。(2009.06.03)