中東は目覚めるのか


チュニジアに端を発した民主化の大波は北アフリカから中東の全域に押し寄せている。つい最近まで誰も想像していなかった事態が次々に起きているのだ。大波をかぶっているのはいずれも強権独裁政権が支配する国々である。ほとんどが30年以上の独裁政権によって少なくとも外から見れば圧政を行ってきている。そもそも独裁者というものは、自分自身や身内の利益を守るためにはどんなことでもするのである。そのために多くが強権にならざるを得ない。このような独裁者がもっとも恐れるのは民衆が目覚めることである。これを抑え込むためには恐怖政治が一番であり、ほとんどが暴力によって秩序を維持している。当然人権などというものは無視される。また内外の情報を統制して民衆をツンボさじきに置くというのも常套手段となっている。それは新聞、放送などの報道機関を管理下において政権に都合の良い報道をさせると同時に、外部からの都合の悪い情報は検閲して規制するのである。

しかし、時代の流れはこのようなやり方を拒否した。これまではラジオ・テレビや新聞で管理された情報によって騙されていた民衆がインターネット上を飛び交う膨大な情報を知るに及んで、自分たちが置かれている立場を一気に理解したのである。そして自分たちも自由になれることを知ってしまった。そうなれば反政権意識が噴き出すのは当然の成り行きである。まさに独裁政権がもっとも恐れていたことが急速に現実のものになったのである。かくして、チュニジアに続いてアラブの盟主といわれたエジプトの政権が崩壊し、バーレーンやイエメン、ついには最も強権といわれるリビアにまで飛び火した。今後、この地域のほかの独裁政権にも波及することは疑う余地がない。

独裁というのは国家が形成されるときに力によってまとめ上げる手っ取り早い方法である。たくさんの部族を従属させるには最も武力のある者が独裁権力を行使することは必要だったのだ。その独裁権力者および一族が国を永続的に支配するようになって王制や帝制に移行してゆくことになる。しかし、のちにそれは腐敗して権力闘争や民衆の蜂起につながり、倒されることが多いのである。ヨーロッパなどに現存する王室はこのような歴史を経て続いてきたが、今は権力はもたず、権威の象徴として存続しているものがほとんどである。

ところが、アフリカや中東では、ヨーロッパ諸国のような古くからの王室とは違って、第二次大戦以降に植民地支配から独立した後、多くは内戦を繰り返した結果、権力を手にしたケースが多いのである。不安定な政権を維持するために当初は独裁体制になるのが普通だが、ほとんどが言論統制や弾圧に走るのも常套である。それらの多くがその後長期にわたって独裁を続けているため、その間に抑圧されていた民衆の不満はたまり、一触即発の状態のところになにかのきっかけで爆発しやすくなっていたのである。チュニジアの場合は、露店商の青年が警察当局ともめた後に抗議の焼身自殺したことで、反政府デモが発生し、これがインターネット上でその状況が国内だけでなく世界中に伝わった。それを見た国内の反政府勢力が一斉に蜂起し、またたく間に独裁者を追い詰めたのである。エジプトもしかりであり、ほかの国も同じような道を辿るのだろう。

これで今、ターゲットになっている独裁政権は一気に崩壊すると思われるが、民主化の方向へ動くかどうかは不透明で、当面は各国とも混乱は必至である。なぜなら、各国とも若者たちが主導して付和雷同型で進んできたため、ほとんど受け皿がないからである。つまり、勢いで突っ走って目的は遂げたものの、そのあとどうするかという段になると確固たるリーダーもいないし、信念もないのが実情である。

その点、倒された独裁者たちは強烈な信念とリーダーシップをもっていた。そのため混乱を乗り越えることができた。今回はどうかといえば、まったくわからないというのが本当のところだろう。

視点を変えると、インターネットがもつ危うさというものが如実に表れているといっても過言ではない。とくに今回は一般民衆が「独裁者憎し」だけでインターネットによって扇動されたものである。目先の目的はとにかく独裁者を倒すことだけで、その後のことはほとんどの民衆は考えていないだろう。インターネットとはそんなものなのだ。ネット上では無責任が放置される、というより責任のとりようがないのだ。

また、今回の当事国は産油国が多いということが世界的に大きな影響を及ぼすことも必定である。これまでの独裁政権下で安定して石油の供給を受けてきた輸入国の多くは懸念している。彼らにしてみれば現状のままでいて欲しいというのが本音だろう。この先どうなるか、世界経済にとっても大きな暗雲が垂れ込めてきたことは間違いない。

今後、この騒乱はアジアにも飛び火する可能性は十分ある。中国あたりはすでに厳戒態勢にはいっているというが、そうなれば北朝鮮も例外ではなくなるだろう。ヘタをすると暴発することもありうる。日本はモロにそのとばっちりを受けることを考えておかなければならないが、平和ボケニッポンはそのとき最大の被害国になるかもしれない。
(2011.02.27)