イヌネコの惑星


さきごろ東京で、視覚障碍者を導いていた盲導犬が、何者かに腰を鋭利な刃物で刺された、という事件があった。犬は刺されたときに鳴き声を出さなかったため、連れていた飼い主は気が付かず、職場に着いてから発覚したというのだ。盲導犬は一般道を歩いたり、電車に乗るといった人間社会のなかで活動しなければならない。そのために吠えたり、身体に触れられたりしても抵抗しないように訓練されているという。犯人がこれを知っていて犯行に及んだとすればきわめて卑劣で、その反社会的行為は許されるものではない。警察では器物損壊で捜査中ということだが、そういう輩は厳罰に処すべきである。

警察犬や盲導犬などは人間が訓練することによって特定の行動ができるのだが、一方でこのような犬たちは自然なふるまいを制限されているともいえる。その意味では一種の動物虐待にあたるのかもしれない。ただ、犬という動物は太古の昔から人間とともに暮らしてきて、人間の生活を手助けしてきた。そのために人間の勝手な都合で役に立つように改造されてきた歴史がある。これによって、犬にはたくさんの犬種ができてしまった。

そこへゆくと、ネコは気楽なものだ。むかしからネズミ除けとして世界中で飼われているが、別に訓練などを受けなくてもありのままに生きているだけで役に立つのだ。だから態度はマイペースで人間に媚びない。人間による改良などもほとんど受けていないので、世界中のどこでも同じスタイルで柄もトラ、三毛、黒、白、ブチなどだいたい同じだ。日がな一日、日当たりのいいところにねそべっているのが一般的な光景だ。

最近は犬・猫とも愛玩用が主流でほとんどは家の中で人間と一緒に暮らしている。なかには大型犬まで家の中をうろついているのには驚く。むかしは犬は家の外につながれていて、ドロボウや押し売りを見張っていた。

家の中で家人と暮らしていると、犬猫にはなんとなく人間臭さがついてくる。いま、はやりの動画サイトにはたくさんの犬猫モノが投稿されている。多くは犬猫の生態を撮ったものだが、なかには撮影者がいろいろ細工して芸や技を仕込んだりするものがある。犬猫たちはこれを結構器用にこなして面白いのだが、どうかすると思わぬ行動に出る場面がある。たとえば、ドアの開閉レバーに飛びついてドアを開けて出てゆく猫や、飼い主が帰ってくる気配を察知して玄関に迎えにでる犬など、これらは教えられたことではなく、長年人間と一緒に暮らしているうちに覚えた行動だろう。動画サイトには人間臭い犬猫たちの姿がたくさんある。

このように犬猫たちが環境に対応してどんどん人間っぽい行動を積み重ねて学習し、進化していくと思うと、ちょっと気味が悪くなってくる。かれらは寿命が短い分進化も早いのではないか。一方で人間はいろいろ便利な環境に浸って安住し、基本的な動作や能力がどんどん退化していく。いつか人間が犬猫をコントロール不能になるようなときが来るのではないか、という妄想にかられる。昔の映画の「猿の惑星」は猿が人間を支配する世界を描いたものだが、猿は人間世界と離れたところにいるので、「人間化」の可能性は小さい。しかし犬猫は人間と一緒に暮らしているだけに「人間化」のチャンスは比較にならないほど大きい。長い期間を考えた場合、着実に進化し、やがては「犬猫の惑星」も否定できないのではないか。

動画サイトを見て面白がって笑っているうちに、ふと頭をよぎった妄想です。
(2014.09.06)