大相撲の今


2015年初場所大相撲は横綱白鵬が全勝優勝で、大横綱大鵬の優勝回数32回を抜いて史上初の単独33回という輝かしい足跡をとどめた。白鵬の天性もあるだろうがこれまでの経験をひとつとして無駄にせず「勝つ」ことへの糧としてきた賜だろう。その結果が他を寄せ付けない盤石の安定ぶりを実現しているものと思われる。まさに一強他弱の状態だが、ここまで突き放されたほかの力士たちはどう対応するのか。

かつて同じように抜群の強さを誇った大横綱はたくさんいた。私の小学生時代には栃錦と若乃花という、いまでは伝説的なライバル同士の横綱の熱戦をラジオにかじりついて聞いていた。いわゆる栃若時代である。その後柏戸・大鵬の柏鵬時代、輪島・北の湖の輪湖時代などがあり、強豪横綱が切磋琢磨していた。その後は時代を作るような顕著なライバル関係は少なくなり、突出して強い横綱が独走する今のような形が増えてきた。その先駆けが幕内優勝31回・連勝記録53連勝という大記録を打ち立てた58代千代の富士である。さらにその後貴乃花・朝青龍が同じように独走型となり、白鵬につながっている。このような独走型では優勝回数・連勝記録が伸びるのは当然である。
しかし、千代の富士の横綱在位10年間には、隆の里・北勝海・大乃国・旭富士といった強豪横綱がおり、貴乃花の時代にも曙・武蔵丸のハワイ勢横綱が切磋琢磨していた。決して一強他弱ではなかったのだ。それだけ千代の富士・貴乃花の強さは傑出していたことになる。朝青龍と白鵬とはライバル関係になると思われたが、朝青龍の不祥事による引退で、白鵬はその後の2年間ひとり横綱となってしまった。いまは3横綱となったものの、そのふたりの横綱も白鵬の好敵手とは言い難い。ましてや大関以下の中にも当面白鵬を脅かす者は見当たらない。

さて、このような状態がいつまで続くのか。白鵬の快進撃をこのまま許していていいのか? いつまでも白鵬の記録伸長に頼っていていてはファンも離れるだろう。といって、白鵬が悪いわけでもなんでもない。大関以下の力士たちの白鵬に対する研究心が足らないのではないかと言っているのだ。たとえば、もう諦めてしまっているのか、対白鵬戦で四つに組んで土俵際に追い詰めておいても、あっけなく投げられる場面が多すぎる。私のような素人でも見ているほうはこのような場合、白鵬の投げ技がでるな、と予想できるのだ。にもかかわらず、その通りにあっさりと投げられてしまう。あまりにもふがいなさすぎである。もっとも、岡目八目のたとえの通り、傍で見ているほうが当事者よりもよくわかるのかもしれないが、それでももっと白鵬を研究すべきだ。とくに上位陣は白鵬攻略に腐心すべきだ。白鵬には歯がたたないと思っている限り、いつまでも状況は変わらない。白鵬はこれからもさらに強くうまくなるだろう。それにどうやって対応してゆくかということだ。

ほかのスポーツではチャンピオンをいかにして倒すかということが、選手にとっては最大の目的になる。そう考えるのは決してチャンピオンや上位の選手に対して失礼なことではない。そのため、ギラギラした闘志むき出しで戦うのだ。しかし、相撲の場合は神事から発祥しているために、あまりむき出しの闘志やふるまいは歓迎されない。秘めた闘志が良しとされるのだ。ここが日本的なところで、相撲の魅力ともなっているのだが、勝負の判定においても審判団の決定が絶対で、力士が不平を土俵上で表すことは許されない。神前では神妙にということだろう。
ところが、この初場所千秋楽の結びの一番を巡って波乱が起きた。白鵬と稀勢の里の対戦が土俵際でもつれ、白鵬の勝ちとした行司の審判に物言いがついた。どっちが先に落ちたかということだが、その結果同体と判断されて取り直しとなり、結局白鵬が勝って全勝優勝となった。
ここまではよくあることだが、場所後に白鵬がそのときの審判団の物言いに対して物言いをつけたのだ。つまり最初の勝負で明らかに自分が勝っていた、と主張したのである。そして、「こどもでも見ればわかる。簡単に取り直しなどと判定してもらいたくない」と審判団を批判した。これに対して相撲協会側は「審判は厳正である。それを批判するのは横綱としての未熟さをさらけだすようなもの」と強く批判した。
これまでにあまり例のない、横綱による相撲協会批判には多くの苦情や意見が寄せられているという。ここで思い出すのは、むかし大鵬が同じような取り直しになったときの言葉だ。「そんな物言いがつくような相撲を取った自分が悪い」と述べたという。大鵬を尊敬してやまない白鵬はその言葉を知っていたのだろうか?知っていたとすればどんな胸中で発言したのだろう。
その後、師匠の宮城野親方が相撲協会に謝罪し、白鵬も反省しているとされるが、いずれにしても白鵬は自身の物言いによってせっかくの大記録を後味の悪いものにしてしまった。これによる心理的なハンディを負うことになるかもしれない。角界のためにも来場所以降に影響がなければいいのだが。。。
(2015.01.28)