雌伏十年


相撲ファンにとってまさに雌伏の十年であった。
待ちに待った日本人力士の優勝だ。
大関琴奨菊が初場所で初優勝!よくやってくれた。

2006年初場所で大関栃東が優勝してのち、10年間60場所にわたって日本人力士の優勝はなかった。その間、毎場所のように今度こそは!と、期待し続けたのだがそのたびに涙をのんできたのだ。

それだけに今回の琴奨菊の優勝は素直にうれしい。しかも相撲の内容がすばらしかった。見違えるような充実した一番々々だった。

大関になってからの琴奨菊はこれまで怪我が多く、5回のカド番を繰り返してきたような状態だったが、昨年の秋場所あたりからちょっと違ってきたのを感じた。肩から胸にかけて貼られていた痛々しいサポーターが外れ、持ち前の馬力が爆発する取り組みがたしかに増えてきたのだ。

場所前の多くの下馬評では、また白鵬の優勝だろうという、もうマンネリに近い予想だった。これを覆すような要因は多くなく、日本人力士による打倒白鵬などは諦めムードだった。それでも稀勢の里への微かな期待や、このところ目を引いていた嘉風などの活躍がちょっとした話題になっていたが、そこには琴奨菊の名前はなかった。

ふたを開けてみると案の定、稀勢の里は黒星発進で相変わらずの取りこぼし連発だし、嘉風は先場所ほど勝てない。白鵬や日馬富士などの横綱陣は順調に白星を伸ばす。また同じパターンだ、と思っていたら、琴奨菊が自身の得意とするがぶり寄り攻勢で白星を重ねていた。しかしこれも先場所と同様に後半には崩れるだろうと思っていたのだが、どっこいその勢いが衰えないどころか、三横綱を立て続けに倒すと12勝全勝で単独トップに立ったのである。

これはひょっとすると!
ここに至って世間は俄然沸き立ってきた。
そうなると、世の中は現金なもので琴奨菊一辺倒である。残り3日の取り組みを固唾をのんで見守った。横綱戦は終わっているので、あとは格下2番と千秋楽の大関戦だけである。しかし、いずれも曲者ぞろいで対戦成績は拮抗している。この3日間はそれ以前よりもずっと気を付けなければいけないのだ。

はたして、13日目の取り組みでは琴奨菊の年少時代からのライバルである豊ノ島に敗れ、1敗となって白鵬に並ばれた。ところが14日目、栃煌山をがぶり寄りで寄り切って1敗を堅持すると、白鵬が稀勢の里に敗れて2敗となったのだ。この時点で再び琴奨菊は単独トップとなり、10年ぶりの日本人力士の優勝が目前となった。それでも一抹の不安はあった。千秋楽で負ければ2敗の白鵬および豊ノ島と相星となって優勝決定戦となる。そうなると、やはり分が悪くなるだろう。なにがなんでも千秋楽では大関豪栄道を下さなければならない。

相撲を見てテレビの前でハラハラドキドキしたのは何年ぶりだろう。おそらく日本中がその一番に祈るような気持ちでいたに違いない。そして、立ち合いで強烈なぶちかましのあと、がぶり寄りに寄ったが、ちょっと押し返されたところを左から突き落とすと豪栄道の体はころがった。琴奨菊、優勝の瞬間である!

かくして、10年の間待ち望んだ日本人力士による優勝が達成された。偶発的なものだという声が当初あったが、あとでこれはとんでもない誤解で、成るべくしてなったものだ、ということが大関自身の言葉によって明らかになった。
詳しいことは省くが、メンタル部分も含めたトレ−ニングの成果もあって自身がやるべきことが明確になり、それを愚直に実行してきたという。それがちょうど結実したのがこの初場所だったということなのだろう。感銘深い話であった。

横綱審議会では来場所は綱取り場所との示唆もある。今回の優勝がほかの期待される力士にとっても大きな発奮材料となることを願うばかりである。

ところで、報道などでは日本人力士とは言わず、日本出身力士という表現をしている。この間に帰化していた旭天鵬が優勝したことや、現役外国人力士への配慮と思うが、しかし多くの日本国民は日本人力士による優勝を待ち望んでいたのが本音だろうと思う。私は、決して偏ったナショナリストではないのだが、ここではあえて本音で表現させてもらう。

ひとつ苦言を呈したい。
千秋楽の結びの一番で不審を抱いた人は少なからずいたのではないだろうか。
あまりにもあっけない白鵬の負けっぷりだ。日馬富士の強烈な当たりにほとんどなにもできずに、というより、なにもせずに押し出されてしまった。前日の稀勢の里戦でも同じように見えた。自分に優勝の目がなくなったから、相撲を投げ出したとしか見えない。どこか体が悪いのだろうか?それともなにか深謀遠慮があってのことだったのか。大鵬の優勝回数を上回った大横綱にふさわしくない今回の白鵬の土俵態度について横審も相撲協会もマスコミも何も触れていないのは不審である。
(2016.01.27)