とうとう・・・


とうとうその時が来てしまった。長い間日本中のファンを一喜一憂させ、今度こそは!という期待をことごとく裏切ってきた横綱稀勢の里が現役引退を決意し、相撲協会に届を出して受理された。予想されたとはいえ、ついに現実のものになってしまったことへの落胆はファンにとって小さくない。なにしろ、19年ぶりの日本人横綱の登場で、沸きに沸いた期待の熱はそのあとの連続休場という冷や水にも冷めることはなかった。それどころか、ケガでの休場はしょうがねえな、次こそは・・・という思いがそのたびに昂じてズルズルとここまで来てしまったのだ。しかし、いったいいつになったら復調するのかという思いもまたあった。そして復活の兆しと思われたのが、2018年秋場所だった。この場所は、かつての力強さはなかったものの10勝をあげて横審も合格点を出した。これでやっとファンも安心し、次の九州場所に大きな期待をかけたのだ。しかし、初日から4連敗して膝を痛めたという理由で5日目からまたもや休場となった。さすがに横審もこの事態を看過できず、「激励」なるヘンな裁定を下して来場所に進退をかけることを求めた。要するにとうとう引導を渡したのだ。本人もそれを自覚し、巡業は見送ったが稽古場での調子は良く、横綱総見でも復調が見られるとの所見だった。ファンとしては最後のチャンスに一縷の望みをかけた。明けて初場所の初日、はたして黒星スタートとなった。それでも個人的には序盤戦を乗り切ればなんとかいくかなと思っていた。この期におよんでまだ期待していたのだ。しかし期待かなわず3連敗し、4日目に引退を発表してしまった。
横綱在位は12場所で、その間36勝36敗97休という不本意な成績に終わった。幕内になって横綱になるまでの休場はゼロにもかかわらず、97日の休場というのは横綱在位中のもので、新横綱として最初の場所でのケガがいかに大きなダメージであったかを物語る。これにより、連続休場7場所や横綱として8連敗などのワースト記録を保持してしまった。
それでも多くのファンが復活を辛抱強く待ち続けたのは、やはり日本人横綱であり、相撲に対する真摯な姿勢が類い稀だったからだろう。それはしこ名にも表れている。そういう意味では横綱としての品格は抜群だったといえる。
史上最弱の横綱とか、引き際の潔さゼロなどと誹る論調もあるが、横綱になるまでの長い苦難の道のりを地道に歩んできた姿を見てきた多くのファンは、そこに不器用ではあるが本物の相撲取りを見出してきたのではないか。稀勢の里が愛される所以だろう。
引退後は年寄荒磯を襲名し親方として後進の指導に当たるというが、新人年寄としてはまず場所中の警備係を仰せつかるそうだ。来場所からはジャンパーを着た姿が見られるだろう。
ともあれ、稀勢の里の土俵姿が消えるのはファンとして寂しいが、これまでテレビの前でのドキドキハラハラがなくなって、相撲を安心して観戦できるようになるのはありがたい。
(2019.01.23)