いま、高齢者がかかわる自動車事故が急増している。
これまでは、被害者としての事故が多かったのだが、このところ加害者となる事故が目立っているのだ。しかも死亡事故になるケースが多く、その分大きく報道されることもあって高齢ドライバーへの逆風が強まっている。
政府統計(e-Stat)の交通事故統計によれば、平成30年10月末において、原付以上の運転者の年令層別免許保有者10万人あたりの死亡事故件数は16〜24歳の若年層が4.57件でもっとも多く、次いで65歳以上の高齢層が4.08件となっており、中間の年齢層では2件台であることから、若年層と高齢層は目立って多いことがわかる。さらに若年層では16〜19歳が9.18件、高齢層では75歳以上が6.58件と両端でそれぞれ突出している。運転免許保有者の構成は65歳以上が22.1%と最も多く、事故を起こす確率も高くなるのだろう。一方、16〜19歳では6.9%で最も少ないのでこの年齢層が事故を最も起こしやすいという結果となっている。
事故原因としては、若年層では技量不足、法令違反など若いがゆえの理由によるものだが、高齢者では、身体的な衰えによる判断や運動機能の低下にもかかわらず、これまでの運転経験からくる過剰な自信が大きく影響しているという。さらに、認知症による逆走運転などこれまではあまり考えられなかった事例も急増している。
このようなことから、高齢ドライバー対策が急務とされているが、もっとも安易な方法はアブナイ高齢者には運転させないようにすることである。すでに方策としてとられているのが、運転免許更新の厳格化である。これはおもに認知症の発見を目的としていて、更新の前に2段階の検査を行い、この篩にかけられて残った者が更新手続きに進めるというものだ。ところが、この事前検査の予約や手続きのために、時間と費用が余計にかかるので、人によっては更新をあきらめることもあるだろう。まさにその効果をも狙っているのは明白である。そして、それでもしぶとく更新をしてくる人にはそれとなく免許証返上を勧奨したりするのである。さらに、相次ぐ事故を受けてマスコミの過剰報道や印象操作により、世間には老人の運転は悪徳であるかのような空気が作られつつある。まさしく高齢ドライバーに対するいじめそのものである。
不肖私もその仲間である。先の東京オリンピックのあった1964年に免許を取った。まだ大学生だったが爾来55年間軽微な違反はあったものの、無事故で過ごしてきた。多くの同年代の人たちと同じように運転歴からくる自信とこだわりは強い。しかし、なんとなくクルマに乗るのが億劫になってきたのはたしかである。世の中の空気が微妙に作用しているのかもしれない。
友人のなかには免許証をすでに返上した人も出てきた。一方で、まだがんばるという者もいる。私は意地でも更新し続けてやろうと思っているが、やはりトシには勝てず、いずれ返上ということになるのだろう。
また、自動ブレーキなどの安全装置や自動運転装置を搭載して安全対策を施した自動車を普及させ、免許更新時に義務化するなどという話も進んでいる。どうしてもクルマを手放したくないという高齢者には朗報かもしれない。しかし、安全性の実証やコスト面での問題も未解決なので当分先の話だろう。それにそのような自動車への過信から、逆に漫然運転が助長されて事故を起こす懸念のほうがずっと大きいと思う。
自動車というものは、ちょうど日本の経済成長が絶頂にあるときに巡り合わせた我々世代にとってはなくてはならない存在だった。その当時、免許をとるには直接試験場に行って実技試験を受けることが普通だったが、初回で合格というのはなかなか難しく、私も3回目にようやく合格となった。その後、中古車を買って以来6台のクルマを乗り継いで存分に「カーライフ」を楽しんできたが、それも終わりに近づいていることをそれとなくディーラーの担当セールスマンには仄めかしている。
いつの日か、免許を返上してクルマがなくなるとき、それは16年前に妻が他界したときに匹敵するくらいの喪失感があるかもしれない。
(2019.06.24)
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