ベートーヴェン(1770~1828)
交響曲第3番変ホ長調 「英雄」 作品55

”Sinfonia Eroica”(エロイカ;英雄と訳される)と名付けられたこの第三交響曲は1802年から作曲を始めて1804年の春に完成したといわれています。ベートーヴェンにとって1802年といえば、第二交響曲も発表し、作曲家としての輝かしい将来の希望に満ちあふれていた時期でありました。ところがなんと思ったのか、その秋に、滞在していたウィーン郊外のハイリゲンシュタットで突如遺書を書いて自殺しようとしたのです。有名な「ハイリゲンシュタットの遺書」と呼ばれるものですが、そんなものを書いた根底には、人知れず抱えていた苦悩があったといわれます。つまり、そのころから耳が聞こえなくなっていたこと、ウィーンで寵児ともてはやされていたものの、一方でそれに反感や嫉妬をもつ同輩たちの存在、そして失恋などさまざまな苦悩がベートーヴェンを苛んでいたのです。しかしその企ては決行されずに、猛然と立ち上がったベートーヴェンはこういった苦悩を克服してゆく決意をするのです。その後のベートーヴェンの永遠のテーマである、「苦悩を通しての喜び」はこのころに形成されたと思われます。その最初の大作がこの第三交響曲です。そしてこれは苦悩を克服する力を象徴する「英雄」への讃歌として作られたのです。

ちょうど同じころに旧体制を打ち破り、新しいフランスを築こうとしてしていたナポレオン・ボナパルトの偉業にベートーヴェンはいたく感激して、ナポレオンのために音楽を作ろうと考えていたこともありました。この第三交響曲が暗示する英雄がナポレオンである明確な証拠はないにしても、この交響曲を創作中にはなにがしか、ナポレオンを意識していたと思われます。そのため、完成したスコア原稿の表紙には、「ボナパルトに捧ぐ」と書かれていました。ところが事態は一変します。曲が完成した直後に、ナポレオンが皇帝に即位したのです。この報を聞いたベートーヴェンは烈火のごとく怒り、「あの男も所詮普通の人間にすぎない。己の野心を満足させるためにすべての人権を踏みにじり、しかも誰よりも暴君となるだろう」と叫んで原稿の表紙のボナパルトの名をペンで乱暴に消し、それをひきちぎって床にたたきつけた(音楽の友社刊スコア解説より)、という有名なエピソードが残っています。その後、標題は「Sinfonia Eroica ある偉大な人物の思い出のために書かれた」と改められたと言われています。

このようにして出来上がったこの交響曲はベートーヴェン自身が作った一番、二番とはガラッと作風が変わり、さらにハイドン、モーツアルトに代表される、それまでの交響曲の概念を打ち破るものでした。 演奏時間が50分を超えるという長大さもさることながら、全体に漲るダイナミズムは”Eroica”の名にふさわしいものです。これによって、もう誰にも真似できないベートーヴェン独自の作風を確立したのです。

第一楽章:
出だしから張り詰めた緊張感と、ぐいぐい押し出す音のパワーに圧倒されます。がっちりした構成の緻密さに加えて、ダイナミックレンジ(音の強弱の範囲)の広さやアクセント(sfz:スフォルツアンド)の多用からもたらされる躍動感など、この楽章はあらゆる面でベートーヴェン作品中随一の出来であることは間違いありません。
第二楽章:
葬送行進曲となっており、葬儀などではよく流されるので有名です。木管楽器の特性を十分に生かして単なる和音を作るのではなく曲全体を支配する重要な旋律を受け持たせているなど、楽器の使い方に新機軸がうかがえます。
第三楽章:
ベートーヴェンお得意のスケルツォ。急速度でいきいきと走ります。全体がスタッカート(短く飛び跳ねるように演奏すること)だらけで、オーケストラ泣かせかもしれません。
終楽章:
変奏曲形式となっています。変奏曲というのは主題となる旋律をいろいろに変形、発展させた複数の曲から成る音楽です。この楽章では、以前ベートーヴェン自身が作ったプロメトイス(ギリシャ神話の英雄的な神)を主題にした音楽のなかの旋律をテーマに使っています。なんとそれまでに3回もこの旋律を使って音楽を作っていたらしく、これで4回目ということで、ベートーヴェン先生、よっぽどこの旋律がお好きだったようです。

私事ではありますが、初めてこの曲のLPレコードを買ったのは高校時代で、若き日のヘルベルト・フォン・カラヤン率いるフィルハーモニア管弦楽団の演奏でした。これを聞いてベートーヴェンの交響曲のすばらしさに衝撃を受け、それ以来ずっとベートーヴェンに嵌まっています。

楽器編成:
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、バスーン2、フレンチ・ホルン2、トランペット2、ティンパニーに弦楽五部。

第1楽章 Allegro con brio
第2楽章 Marcia funebre: Adagio assai
第3楽章 Scherzo: Allegro vivace
第4楽章 Finale: Allegro molto
RESET MIDI TABLE
直前のMIDIファイルで使った設定が残っていると、正しい音が再生されないことがあります。そのようなときに、MIDIテーブルをリセットします。
(注)再生時、PC内蔵のサウンドボードでは十分な音質が得られないことがあります。
MIDIファイルの無断転載・複製禁止。