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JR篠ノ井線に「姨捨(おばすて)」という駅がある。ここは、うば捨て伝説の地といわれる冠着(かむりき)山(姨捨山とも呼ばれる)のふもとの駅である。しかしこの駅はそのあまり芳しからぬ伝説よりも、ほかのことでずっとよく知られている。それは日本三大車窓風景のひとつといわれる絶景を望む駅として名高いのだ。なにが絶景かと言うと標高約600メートルの山腹にある駅から眼下に広がる長野市内を含む善光寺平(長野盆地)が一望できるのである。しかもこの駅はスイッチバック駅であることも知名度を上げる一因となっている。このため景色を見るだけでなく、スイッチバックを見に来る鉄道好きの人たちでにぎわっているという。そういうわけで、ちょっとミーハーだがそんな評判を確かめるべく現地に赴いた。
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三大車窓とは旧国鉄時代に選定されたというが、因みに、ほかの二つの車窓風景とは、九州はJR肥薩線の矢岳(やたけ)駅付近からの矢岳越えの風景、および北海道のJR根室本線の狩勝峠越えの風景(現在はそのルートは廃線となっている)である。つまり共通するのは山越えをする鉄道の車窓風景が絶景であるとされていることである。今は山を越えるには長大なトンネルで通り抜けるが、昔はそのようなトンネルを掘る技術が低かったために、山腹をよじ登る形で越えたのである。徐々に高度を上げて行く列車内からの眺めはたしかに良い景色に違いない。一方で、このような山越えの列車を車外から眺めてもすぐれた風景が見られるのである。
つまり山越えのための鉄道線路が平地では見られない独特の風景を作りだすからである。それは山腹を登るために急坂や、スイッチバック、ループなどを組み合せてつくられた線路で、そこを昔だったら蒸気機関車が長い客車や貨車をひいてあえぎあえぎ登って行くという、一種感動的な光景が展開していたのである。今は電車やディーゼル列車が軽々と登って行くが、それでもやはりそんな独特の線路を走って行く列車の姿には魅力がある。その意味で本来は「国鉄線路三大展望」と言われていたが、いつの間にか「三大車窓」となったと思われる。
篠ノ井線は中央本線を東西に分ける塩尻駅と信越本線の篠ノ井駅を結ぶ路線だが、中央本線と長野方面を結ぶ重要な短絡線の役割を担っている。塩尻駅から松本駅までは梓川の流れる松本盆地を走り、その先で山の中に分け入って行く。23‰の急勾配とトンネルの連続で高度を上げ、聖高原駅あたりで最高地に達してその後25‰の下り坂となって最後の冠着トンネルを出ると広々とした平地が眼下に広がる。これが一般に善光寺平と呼ばれている長野盆地である。線路はこの先、篠ノ井駅までずっと下り坂が続く。その途中に姨捨駅がある。この駅は坂の途中にあるため、山腹を削って水平に造成した場所につくられており、本線との出入りをスイッチバックで行う、スイッチバック駅である。駅に停車する必要のない特急列車などはそのまま本線を通って行く。そしてそのホームに立つと善光寺平を一望する絶好の場所なのである。
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しゃれた駅舎だが、無人駅。1934年(昭和9年)につくられた木造駅舎。 |
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ホームは2面2線の対向式。右側ホームには長野方面行き列車が、左側には松本方面行き列車が画面奥方から入線してくる。駅は1900年(明治33年)の開業というから110年の歴史がある。 |
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駅構内のポイント配置
松本方面に向かって急な登り坂が続く。左端の線路が本線で下って行くのがわかる。 |
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JR東海の383系特急「しなの」名古屋方面行きが通過して行く。 |
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姨捨駅には各駅停車のほか、一部の快速列車が停車する。そこでは行き違い交換や特急列車の退避が行われることも多い。このときは長野駅から飯田線の天竜峡駅までを走る快速「みすず」と、松本駅から長野駅までの普通列車1227Mとの交換が行われた。交換は普通列車が先に到着し、快速列車がホームに入線してから発車した後に普通列車が発車する。その間6分だった。 |
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駅ホームの下を勾配25‰の本線が通る。手前側が長野方面、奥側が松本方面。
11:48 快速「みすず」が登ってくる。この先の引き上げ線にはいってから、バックしてホームに入線する。右のホームでは各駅停車長野行き1227M列車が行き違い交換のために待っている。 |
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11:52 スイッチバックしてきた「快速みすず」が入線する。バック運転なので運転士が運転台を替えることはなく、テールライトもそのままである。 |
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「快速みすず」は天竜峡駅・飯田駅と長野駅を飯田線・中央本線・篠ノ井線・信越本線経由で運転される。この列車はJR東海の313系車両だが、乗務員はJR東日本の担当。すぐに発車して飯田線天竜峡に向かった。 |
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11:54 続いて待機していた1227M長野行き列車がバック運転でスイッチバックの引き上げ線に向かう。運転士と助手が最後部車両から顔を出して前方を確認している。ヘッドライトもそのまま。 |
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11:56 引き上げ線から本線にはいり、長野方面に下って行く。
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このように列車の行き違い交換は非常に手間がかかるため、多くのスイッチバックが廃止になっているなかで、この姨捨駅は1世紀を超える間、変わらない姿を見せてくれている貴重な文化財産といえる。 |
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鉄道総合ページ:「鉄道少年のなれの果て」
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