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出典:筑摩書房版「古典落語」飯島友治編、講談社文庫「古典落語」興津要編
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そこつ長屋
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長屋に隣り合って住む、ふたりのそそっかしい男。片方はまめでそそっかしく、もう一方は無精でそそっかしい。ある日、まめなほうが浅草の観音さまをお参りして、雷門を出るといっぱいの人だかり。聞くと、行き倒れだという。見たいんだがこんな人が大勢いたんじゃァと、前の人のまたぐらをかいくぐって、やっと前にでて見ると、薦がかけられた男が倒れている。町役人が顔を見てくれというので見ると、
「・・・これァ熊の野郎だ」
「知ってる人かい?」
「知ってるも何も、こいつァ俺の隣にいるんだ」
「引き取り手がわかってよかった。おまいさん、引き取ってもらえるかい?」
「引き取ってもいいが、あとで『あの野郎、うめえこと言って持ってっちゃった』なんて、痛くもねえ腹ァ探られんのも・・・じゃァ、こうしましょう。とにかく当人をここィ連れてきますから・・・」
ッてんで、あっけにとられるみんなを尻目にとって返すと、
「おゥい、熊公ッ・・・いつまで寝てやんでィ・・・熊やいッ・・・おいッ」
「馬鹿だねえ、あいつァ。夢中になって戸袋ォ叩いてやがる。熊、熊ッて・・・あッ熊ァ俺だ。・・・おいおい、そこはおめえ・・・戸袋だィ。寝ちゃァいねえ、こっちだよ」
「あれッ、この野郎、おめえ、そんなところィ座って煙草なんぞふかしていられる身じゃァねえぞ」
「なんかあったか?・・・」
「あったもなにも・・・、おめえ、昨晩(ゆんべ)浅草で死んでるんだぞ」
「・・・だけど、死んだような心持がしねえ」
「それがおめえは・・・ずうずうしいッてんだ・・・、とにかく、死骸を引き取りに行けよう」
渋る熊公を引っ張って浅草に。熊公、しばらく行き倒れを見ていたが、
「あッ、これァ俺だッ!・・・やいッ、この俺めッ・・・なんてまァ・・・あさましい姿ンなって・・・」
「泣いたってしょうがねえや。頭のほうを抱いてやれ」
「そうか、・・・だけど兄貴、抱かれてんのはたしかに俺なんだが・・・抱いてる俺は一体(いってえ)・・・どこの誰なんだろう?」
(間抜け落ち)
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宿屋の仇討ち
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ある宿場で武蔵屋という宿屋にひとりのお侍が投宿したが、その折りに、宿の若い衆の伊八に言うには、
「拙者は万事世話九郎(ばんじせわくろう)と申すもの、前夜は相州小田原宿、大久保加賀守殿のご領分にて、むじな屋と申す宿屋に泊まりしところ、なにはさて雑魚も無象もひとつ部屋に寝かせおき・・・・親子の巡礼が泣くやら、駆け落ち者が夜ッぴて話をするやら、相撲取りが鼾をかくやら、とんと寝かしおらん。今宵は間狭(ませま)でもよいが、静かな部屋に案内(あない)してもらいたい」
とて、部屋に通されるが、そのあとにやってきたのが、江戸の魚河岸の三人連れ。さっきのお侍の隣の部屋に陣取った。そこで、芸者をあげてどんちゃん騒ぎが始まった。治まらないのはお侍、
「(ポン、ポン、ポンと鷹揚に手を売って)伊八いィ・・・伊八いィ・・・」
「へえェい・・・・ェェお呼びになりましたか?」
「敷居越しでは話ができん、もそっとこれへ進め。先刻泊りの節、その方になんと申した。前夜は相州小田原宿、大久保加賀守殿のご領分にて、むじな屋と申す宿屋に泊まりしところ、なにはさて雑魚(ざこ)も無象(もぞう)もひとつ部屋に寝かせおき・・・・親子の巡礼が泣くやら、駆け落ち者が夜ッぴて話をするやら、相撲取りが鼾をかくやら、とんと寝かしおらん。今宵は間狭(ませま)でもよいが、静かな部屋に案内(あない)してもらいたい、と申したではないか。なんだ隣の騒ぎは。あれではとても寝られん。静かな部屋と取り替えてくれ」
「相すみませんでございます。あいにくどの部屋もふさがってしまいまして、ェェ隣にまいりまして、隣の客を鎮めてまいりますので、この部屋でどうぞご辛抱を・・・」
と、伊八は隣へ行って
「あいすみませんが、もう少々お静かに願いたいんですが・・・」
「なんだ?隣の客がやかましくて寝られねえ?その野郎ォここに連れて来い・・・」
と気炎をあげていたが、二本差しと聞いて
「わかった、わかった、おとなしく寝るから」
しばらく寝床のなかでおとなしくしていたが、話が相撲のことにおよんで、つい立ち上がって相撲をとりはじめ、どたん・・・ばたん・・・がたん・・・めりめりめりめりィ・・・ッ・・・
「伊八いィ・・・伊八いィ・・・」
「しょうがねえなこりゃ・・・へェ・・い、お呼びで・・・?」
「敷居越しでは話ができん、もそっとこれへ進め。先刻泊りの節・・・・」
と、またはじまった。
「隣を鎮めてまいりますので・・・」
また隣に行くと、
「さっき、お願いしたじゃありませんか。隣のお客様が寝られないと・・・」
「違ぇねえ。すまねえ、すっかり忘れちゃった。もう寝るから・・・」
三人は、力のはいる話をするからいけねえ。もっと力のへえらねえ、女出入の話をしようと、源兵衛が、川越藩の石坂段右衛門家中に小間物屋として出入りするうち、ご新造と不義密通し、それを知った弟石坂大介に成敗されそうになって、逆に殺し、金五十両をとって逃げようと、足手まといになるご新造をも殺したが、三年経っていまだに知られないと自慢する。これを聞いたほかの二人が
「源兵衛は情事師(いろごとし)、情事師は源兵衛、すってんてれつくてんつくつ、・・・」
と、囃し立てて、踊りだし、また大騒ぎに。
「伊八いィ・・・」
「寝られねえや、こりゃどうも・・・へえェい・・・お呼びになりまして・・・」
「敷居越しでは話ができん、もそっとこれへ進め。先刻泊りの節その方になんと申した・・・」
「前夜は相州小田原宿・・・」
「黙れッ。万事世話九郎と申したは世を忍ぶ仮の名。まことは川越の藩中にして石坂段右衛門と申す者。前年妻弟を討たれ、その仇を討たんがため、めぐりめぐって三年目、隣の部屋に仇の源兵衛という奴がいることが相わかった。一応そのほうに申し入れるが、手前が隣の部屋にまいるか、隣の部屋から源兵衛と申す者が斬られにまいるか、二つにひとつの返答を聞いてまいれ」
びっくりした伊八、隣の部屋に行って、かくかくしかじかと伝えると、源兵衛は気も動転して、
「あれァ、嘘だ・・・、実は両国の小料理屋で一杯ェ飲んでたときに、そばでこの話をしてえた奴があって、それをそのまま話したんだ」
と白状した。伊八はそう伝えるが、侍はきかない。結局、
「翌朝宿場はずれにおいて出会敵(であいがたき)といたそう、それまでそやつの命をその方にあずけおく。もし、逃がしたらこの店の者を皆殺しにしてくれる」
と言って、侍はそのまま高いびきで寝てしまったが、伊八は逃がしたらたいへんと、店中の者が三人をぎゅうぎゅう縛りにして、柱へ結わいて寝ずの番となってしまった。
翌朝、侍は機嫌よく出立しようとするが、伊八が
「旦那(だァ)さま、あの三人はいかがいたしましょうか?」
柱に結わえられて、べそをかいている三人を見て、
「ひどくいましめられておるが、なにかよほど悪いことでもいたしたか?」
「いえ、・・・あのまんなかに縛ってある、源兵衛が旦那さまの奥さまと弟御さまを殺した悪い奴でございます」
「はて?・・・なにか間違いではないか?拙者、故あっていまだ妻をめとった覚えはないが」
伊八はビックリして懸命に説明すると
「あ、ゆうべのあれか、はッはッはッ・・・あれは座興(ざきょう)じゃ座興じゃ」
「座興と申しますと、・・・口から出まかせで?・・・・貴方(あァた)、なんだってそんなつまらない嘘をおっしゃるんです?」
「いやあァ、・・・あれくらい申しておかんとな、拙者が夜ッぴて寝られん」
(ぶっつけ落ち)
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時そば
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昔は二八蕎麦などといって、二八が十六文で売った、という説や蕎麦粉が八分で、饂飩粉が二分だから、という説もある。そば屋といえば、天秤で荷をかついで売り歩く露天商が普通で、呼び声も、
「そばァ・・・うゥ・・・い」
「おゥ、そばや、なにが出来るんだい?花巻に卓袱(しっぽく)?卓袱ひとつこしらいてくんねえ、・・・・寒いなァ」
「今晩はたいへんお寒ゥございます」
「どうでえ、商売(しょうべえ)は?いけねえか?しかたねえや、そのうちにまたいいときもあるさ。商ェ(あきねえ)といってね、飽きずにやらなきゃァいけねえぜ」
「ありがとうございます。親方うまいことをおっしゃいますな」
「この看板、変わってるな、これァ。的に矢が当たってて・・・あたり屋、いい看板だなァ・・・俺ァこれから他所(わき)へ出かけて友達が七、八人集まって、(壷を伏せる形)こんなことをしようてんだ。その前で当たり屋に出ッくわしたなんざァありがてえじゃねえか。俺ァ蕎麦が好きだから、この看板見たらまた来るぜ」
「ありがとうございます・・・お待ちどうさまで・・・・」
「お待ちどうさまじゃァねえや、早えぇじゃねえか。蕎麦屋さん、気が利いてるねェ、江戸っ子は気が短えからねェ・・・・。えらいッ。感心に割り箸を使ってえる。・・・・いい丼を使っているねェ・・・・」
このあと、出汁がいい、蕎麦が細くていい、腰が強くていい、ちくわを厚く切ってあっていい、などと褒め上げておいて、
「もう一杯といきたいんだが、きょうは一杯で勘弁してくんねえ、いくらだい?」
「十六文いただきます」
「銭は細けえんだ、間違えるといけねえ、勘定してやろう、手ェ出してくんねえ・・・・(はじめはゆっくり)ひとつ、ふたつ、みッつ、(次第に早く)よッつ、いつつ、むッつ、ななつ、やッつ、(突然、声を張り上げて)何刻(なんどき)だい?」
「へえ、九ッ」
「(更に早く)とお、十一、十二、十三、十四、十五、十六」
と勘定払ってぷいッと行っちまった。
これを陰で聞いていたのがぽうッとした野郎で、
「あん畜生、よくしゃべりやがって、あんまり蕎麦屋を褒めるから、ひょっとして食い逃げじゃァねえかと思ったら、銭を払ってやがる。『小銭だから間違えるといけねえ。勘定して払おう・・・、ひとつ、ふたつ、みッつ、よッつ、いつつ、むッつ、ななつ、やッつ、何刻だい?』『九ッ』『とお、・・・・・十一、十二、十三、十四、十五、十六』・・・・変なところで時刻(とき)を聞きやがったな、あんなとこでときを聞くこたァねえじゃァねえか、・・・ひとつ、ふたつ、みッつ・・・・・」
と何回かやってるうちに、
「あッ、一文かすりやがったんだ、うまくごまかしやがったな。これァおもしろいや、俺もやってやろう」
翌日細かい銭をもって往来に飛び出すと、
「おゥい、蕎麦屋さん、さっきから呼んでるじゃねえか、ずんずん行っちまうない。なにが出来るんだい?花巻に卓袱?卓袱ひとつこしらえてくんねえ・・・・寒(さぶ)いねェ」
「へえ、今晩はたいへんお暖(あった)かいようですなァ」
「・・・?・・・あゝ・・・そうだ、今夜は暖けえんだ。そうだ、俺もそう思ったんだ・・・寒いのはゆうべだ、ねェ?ゆうべ寒かったねェ・・・・・どうだい、商売(しょうべえ)は?」
「ありがとう存じます。おかげさまで」
「おかげさまで?なんだい?いいのかい?さからうね、こん畜生め。おめえんとこの看板かわってるねェ・・・これァ、的に矢が・・・・当たってねえや、これァ。丸が書いてある・・・丸屋?あゝ、いい看板だァ。これから俺は他所ィ行って、友達が七、八人集まってね、こんなことォしようてんだ、そこで今夜俺はまァるくなって・・・・・看板はまァいいや、看板はいいけど、蕎麦はどうしたい?おい、まだかい?おい、早くしろよ、こん畜生、じれってえなァ。江戸っ子は気が短ェじゃねえか・・・・」
「へい、親方おまちどうさまで」
「おッ、感心におめえんとこは割り箸を使って・・・・・これァ割ってあるなァ。おめえんとこの、この丼は・・・・・汚ねえ丼だねェ、これァ、ひびだらけだねェ・・・。だけど、おめえんとこの出汁は鰹節をおごって・・・・・おい、湯うめてくんねえ、とても俺にやァ食えねえよ・・・。蕎麦はッてえと・・・・これァ饂飩かい?ずいぶん太くて柔らかいねェ・・・・。今度はちくわにとりかかろう・・・・あれッ、おめえんとこ、ちくわ入れないの?はいってます?・・・・あッた、あッたよ、丼にピッタリくっついていてわからなかった、よくこう薄く切れたねェ・・・・・俺ァもうよすよ、おい、いくらだい?」
「へえ、ありがとう存じます。十六文いただきます」
「小銭だ、間違えるといけねえからな、勘定してやるから手ェだしてくんねえ」
「へえ、これへいただきます」
「そうかい、ひとつ、ふたつ、みッつ、よッつ、いつつ、むッつ、ななつ、やッつ、何刻(なんどき)だい?」
「へえ、四ッで」
「いつつ、むッつ、ななつ、やッつ・・・・」
(間抜け落ち)
花巻(はなまき)・・・焼いた海苔を細かにもんで振りかけたかけそば
卓袱(しっぽく)・・・・そば・うどんにキノコ・かまぼこ・野菜などを入れて煮る料理
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二番煎じ
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火事は江戸の華、といわれるほど、江戸は火事の多いところで、しかも一度出火すると、たちまち五十軒、百軒などが灰になってしまう。そこで、そういうことがあっては困るというので、番小屋をつくって、そこに「火の廻り」を雇って毎晩詰めているものの、こんな所に雇われる人間といえば、酒が好きで、寒いといっては、縄のれんで一杯ひっかけて、夜廻りに廻ってくる。また寒いというので番小屋で一杯やる。終いには、もう廻るのがめんど臭ェ・・・てんで、怠りがちになる。こういうことがあっちゃァいけないってんで、町内の旦那衆が出ることになって、・・・またこれを出てるか、廻っているかということを調べて歩く、役人(廻り同心)がいた。
番小屋に集まった旦那衆、早速、二組に分かれて交代で火の廻りに出かけるが、みんなこんなことは素人だし、おまけに寒いもんで、金棒を突かずに引きずって歩いたり、拍子木を袂にいれて打ったり、「火(し)の用心、火の廻り・・・・」を、謡の調子でやるやら、新内調子でやるやら、とんと気勢が上がらない。「いまごろ、奉公人達はあったかい布団のなかでぬくぬくと寝てェるだろうなァ」とぼやきながら、なんとかひとまわりして次の組を送り出し、あったまろうと火に炭をついでガンガン熾すが、
「あのうゥ・・・月番さん!・・・・」
「なんです?」
「ェェ・・・実は、宅をでるときに・・・娘が『どうも・・・おとっつあん、寒いから・・年齢ィとってるんだし・・・風邪でも引(し)くといけないから』・・・・てんで、・・・(瓢箪を)この中に・・・お酒を入れて持ってきましたんで・・・みなさんであがっていただきたい・・・」
「お酒?・・・・あァたァ!いったい・・・ここを何処だと思っている・・・・え?・・・此処ァ番小屋ですよ・・・・番小屋で酒ェ飲んだってことが、役人に知れたら・・・大変ですよ。・・・だいいち、あなたは一番年長者(としかさ)だよ・・・他のもんがそんなことォしたら『そんなことをしちゃァいけませんッ』と、おまいさんが言わなくっちゃァいけないんだ」
「どうも・・・・まことに済みません。気がつきませんで・・・じゃァ・・・これはこちらに・・・・」
「あゝ、・・・いやいや、せっかく持ってきたものを引っ込めることはありません・・・お出しなさい・・・いいからお出し」
「で、どうします?」
「飲みます」
「飲むゥ?・・・今あァたァ、『番小屋で酒飲んじゃいけない』とおっしゃいましたが・・・・」
「瓢(ふくべ)から出る酒だからいけない・・・土瓶から出る煎じ薬なら・・・さしつかえないでしょう」
「はァはァ・・・なるほど!・・・・・これァ気がつかなかったなァ・・・煎じ薬は恐れ入りましたなァ」
と、酒を土瓶に移して火にかけると、
「ェェ月番さん・・・こんなこったろゥと思って、実はあたくしァね、猪(しし)の肉をもってきました」
「猪の肉?・・・・こりゃァいいとこに気がついたなァ・・・・だけど、肉があったって・・・鍋がなきゃァ・・・困るなァ」
「えゝ、背中に鍋ェ背負ってます」
茶碗で酒をまわし飲みしながら、猪の肉をみんなでつついていると、
「ばん(番人)!・・・ばんッ!」
「えッ?」
「伊勢屋の犬ですよ・・・猪の匂いがするから・・・やって来やがったんだ」
「ばんッ!」
「しィッ!」
「ばんッ!ばんッ!」
「しィッ!しィッ!」
「これッ・・・・ここを開けろッ・・・・番のものはおらぬか?・・・・見廻りの者である」
「えっ?・・・おゥ・・・これァ驚いた・・・・見廻りのお役人!・・・お役人・・・」
「お役人?・・・これァ・・・よ、よわったな・・・こらァ。どうしよう・・・・」
「『どうしよう』ッたってね、なにしろ・・・・この・・・土瓶を片付けちゃって、鍋も後ィ・・・・入れときゃァね・・・・これで隠しとくから大丈夫・・・・ェェ・・・ただいま開けますから・・・ちょっとお待ちくださいまし・・・・・へえ、どうも・・・・・ご苦労さまでございます」
「廻っとるか?」
「へえ。ただいま・・・一(しと)廻りいたしまして、帰ィってまいりました」
「それは、ご苦労であるな・・・・あァ・・・今わしが『番』と申したら『しィ』と申した。・・・『番々』と申したら・・・『しィしィ』と申した・・・あれは何だ?」
「ェへ、これはどうも・・・・左様(さい)でございます・・・・ェェ・・・あれは・・・その・・・こういう訳でございます。一(しと)廻りまわりましたところが、どォにもこうにも寒(さぶ)くってな・・・まァ・・・『あァ・・・寒(さぶ)いから火(し)を熾そうじゃァないか・・・火(し)ィ、火(し)ィ・・・』と申しましてな・・・」
「ほォ、さようか・・・・なにか土瓶のようなものを隠したな」
「これァ驚きましたなァ・・・どうも。・・・ェェ・・・そのォ・・・左様(さい)でございます・・・あれは・・・その・・・こういう訳なんで・・・風邪でも引(し)くといけないから煎じ薬でも飲もうじゃないかというんで、ただ今煎じ薬を飲んでおりまして・・・・」
「ほォう、さようか・・・煎じ薬か・・・・や、拙者も両三日前から風邪を引(し)いておる。役目というので致し方なく、こうして廻っておる。・・・・その煎じ薬を、わしにも一杯飲ませろ」
「へェ、よろしうがす・・・どうぞお飲みくださいまし」
「あゝ、さようか・・・・これはとんだよい煎じ薬だな」
と飲んでるうちに
「あァ・・・それから鍋のようなものを・・・・」
「ェへ・・・みんな見つかりまして・・・・へェ・・・あれは・・・その煎じ薬ばかりじゃァいけないから、・・・口直しを食べようてんで、口直しを食べておりました」
「その口直しをこれへ出せ・・・・これはよい口直しである・・・・もう一杯ついでくれ・・・・もう一杯・・・・・」
「ちょいとォ・・・あたしたちの飲むのがなくなっちゃう。・・・お断わんなさい」
「・・・おゥ・・・そうかい。・・・じゃァ断ろう・・・・ェェまことに相すみませんが、煎じ薬はもう、ございません」
「なに?・・・・ないと申すか?・・・・さようか・・・・いや、ないとあらば致し方がない。・・・・拙者一廻りまわってくる・・・・二番を煎じておけ」
(ぶっつけ落ち)
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