落語の登場人物の常連といえば、熊さん、八っつあんである。このコンビはいろいろなところで活躍する。本名は熊吉(熊五郎もいる)、八五郎といって職業は大工であることが多い。江戸は火事っ早いところで、いったん出火すると紙と木でできた家々につぎつぎに燃え広がり、消防も不備だったこともあって大火になりやすかった。こんな大火事が何度もあって、そのたびに再興してきたのが江戸の歴史でもある。復興には当然、大工や左官などの職人が活躍するわけで、とくに大工は一種のプライドをもち、職人のなかでもいい給金を取っていたといわれる。そんなわけで、日ごろから「仕事せえありゃあ大名暮らし(でえみょうぐらし)だ」などとうそぶいている。
以下、落語に出てくるこんな愉快な連中の人別帳である。
大工の棟梁政五郎(まさごろう)
棟梁(とうりゅう)になるだけのことはあって面倒見が良く、店賃(たなちん)を溜めて抵当にとられた与太郎の道具箱を取り返そうと大家と喧嘩してまで若いもんを大事にする。このときの大家は源六という因業大家で、前の六兵衛大家が死んで、そのかみさんとくっついて、そのまま大家に成りあがったことをみんな知っている。【大工調べ】
船頭の熊公と八公
河岸(かし)にいると、船宿の下女の「たけ」が「熊さぁ〜ん、八っつあ〜ん、くまんばっつあ〜ん、親方が呼んでるよ〜。恐い顔してるよ〜」と呼ぶもんで、こりゃあこないだの悪事がばれた、とビビリながら、親方のもとにいって白状すると、「いつやったんだ。えーっ?全然知らなかった」などという間抜けなコンビである。結局、このときの話というのは小言ではなく、居候をしている若旦那がぜひ船頭になりたいというんで、「そこんところを、ひとつ頼まぁ」ということだった。【船徳】
商家の若旦那
その若旦那というのが徳三郎で、大店の息子だが、放蕩の限りをつくして家にいられなくなって、あちこちの出入りの職人や船宿に転がり込んで居候している、というとんでもない息子である。船頭のまねごとで、ふたりの客を乗せて出たのはいいが、途中でへばってしまい、桟橋につけられず、客を川の中で降ろすはめになってしまった。【船徳】
また、別の徳三郎は勘当されて「お天道様と米のめしはついてまわらぁ」と大見得をきって飛び出したものの、お天道様はついてくるが、米のめしはついてこない。しょうがないんで、吾妻橋から飛び込もうとしたときに、引き止めたのがなんと叔父さんで、「死ぬ気で働く」ことを条件に助けてもらった。翌日、唐茄子(とうなす;かぼちゃ)を売りに出るが、重い天秤によろよろしながら歩くうち、とうとう荷を放り出し、そこを通りかかった親切な江戸っ子たちがほとんどを買ってくれた。このあと、残ったふたつの唐茄子を売ろうとはいった裏長屋で、極貧の親子を助けて、お上からお褒めにあずかり、勘当が許された。
ここでも因業大家がでてくる。徳三郎がそのおかみさんに与えた唐茄子の売り上げを、溜まった店賃代わりに取り上げてしまい、おかみさんは唐茄子屋さんに申し訳ないと首をくくろうとする。それを知った徳三郎が駆けつけて大家をとっちめて、お上もこの大家を厳しく処罰する。【唐茄子屋政談】
そのほか道楽息子では銀之助という若旦那【干物箱】もいるが、【明烏】にでてくる時次郎という若旦那はおそろしく堅物で、逆にオヤジが心配して郭遊びを奨励するなどという、わけのわからないケースもある。
左官(しゃかん)の金太郎
町を歩いていて財布を拾ってしまい、中をみると三両の金と神田竪大工町(かんだたてだいくちょう)大工吉五郎の印形に書付がはいっていたので、長屋に届けにいくと、先方の吉公が「よけいなことォしやがって、書付と印形はもらっとくが金はおめえにくれてやるから帰りに一杯のんでけ!」などとわけのわからないことを言ったもんで、「なにを!俺は金が欲しくって届けに来たんじゃねえや!」と押し問答の末に取っ組み合いになり、鰯を三匹踏み潰すなど大騒ぎになった。大家さんがでてきて止めにはいって、結局大岡越前守に厄介をかけたが、「両人の正直なふるまいにより、二両ずつの褒美をつかわす」ということになった。【三方一両損】
花見の大家さん
「うちの長屋が貧乏長屋などといわれてるんじゃ、景気が悪くてしかたがねえ。ひとつ長屋の連中を連れて陽気に花見に出かけて、貧乏神を追っぱらっちまおう。酒さかなは俺のおごりだ」、ということで繰り出すが、なにしろ貧乏なもんで毛氈(もうせん)は莚(むしろ)だし、酒は番茶を煮出して薄めたのを一升瓶につめたもの、重箱に中のかまぼこは大根、玉子焼きときたら沢庵で代用するというすさまじい花見で、長屋の連中を辟易とさせた恐るべき大家。【長屋の花見】
与太郎(よたろう)
バカの与太郎という落語界の大立者。自分のことを「あたい」などと言うし、なにか締まりのない物言いをするのでバカにされているが、バカはバカでも、ものごとはしっかりわかっているのである。叔父さんの代理で道具屋の露店の店番をしたが、売り物はゴミばかりでひやかしの客ばかり来る。その客を相手に丁々発止とやりあうなど、ただのバカとは思えない【道具屋】。
仲間の寄り合いで下っ端の用事をさせられてふくれっつらをして兄貴分にどやされたり【三軒長屋】、ばくち開帳中に「手が入った!」という声でみんなあわてふためく中、真っ先に逃げて手水場(ちょうずば;便所)に落っこちる【品川心中】など、たしかに軽く扱われたり、ドジなところはある。しかし一方で、みんなで吉原に出かけてひとりだけモテたり【錦の袈裟】、類まれなる美女の婿養子にはいったり【ろくろっ首】、結構果報者である。
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