一八(いっぱち)
幇間(たいこもち)である。この男、いろんなところに出没するが、どうもあまりいい星の下に生まれなかったらしく、なにをやってもうまくゆかない。一八の噺は涙なくして聞けないという御仁もいる。もっともである。
鍼に凝った若旦那に、枕なんぞで練習しても腕が上がらないから腹を貸せといわれ、泣く泣く腹に打たせたが、途中で針が折れて逃げられたり【たいこ腹】、京都の愛宕山へ登って、旦那が土器(かわらけ)投げのかわらけの代わりに小判を投げて、拾った者にやる、というので谷底まで傘につかまって、決死の覚悟で降りて全部の小判を拾ったのはいいが、「どうやって上がる?」で大慌て。しなう竹をバネに使ってどうにか帰ってきたが肝心の金を忘れてきた【愛宕山】。
そうかと思うと、芸者のお梅ちゃんを口説いて、やっと「じゃあ、今夜二時にあたしの部屋に来てよ、その代わり二時が五分遅れてもだめよ」にこぎつけるが、客にしこたま飲まされたもんで、つい居眠りして朝になってしまってオジャン【つるつる】。
きわめつけは、あの鰻屋の話である。もうそのときは野だいこに落ちぶれていたが、相手が悪かった。名前も言わず、住んでるところも、「せんのとこ(以前の所)」としか言わない胡散臭いやつだったが、妙に調子がいいので、つい取り巻いてしまった。で、その男の行きつけの鰻屋で昼飯を食って別れようということになって、二階にあがったがどうもあまりきれいな店じゃない。それでもなんとか飯を食っているうちに、その男は便所に行くといって消えてしまった。おまけに、おみやに蒲焼を六人前も持ちかえったあげく、一八が買ったばかりの新しい下駄まではいていってしまった【鰻の幇間】。
もう、ふんだりけったりであるが、これを最後に一八の消息はぷっつり途絶えてしまった。その行方は杳として知れない。
甚兵衛(じんべえ)
落語界きってのお人好し。いつも女房の尻に敷かれていてうだつが上がらない。大晦日の借金取りの断りも自分でできないんで、長屋にいる座頭の富の市に頼んだり【言い訳座頭】、からっきしだらしがないが、ときとして、商売の古道具でとんでもない大もうけをしたりする。それまでは、清盛の尿瓶(しびん)とか岩見重太郎のわらじなどで大損ばかりしていたが、こないだ行った道具市で仕入れた小汚い太鼓がなんと、さるお大名に三百両で売れたのである。三百両なんて見たこともなくて、女房も倒れそうになって柱につかまったり、水を飲ませたり、大騒動だったが、これで女房も亭主をいくらか見直すようになったという。【火焔太鼓】
金山寺屋の金兵衛(きんざんじやのきんべえ)
下谷の山崎町に住んで金山寺味噌を商っている。隣に住む西念という乞食坊主が具合が悪いので見舞いに行ったところ、あんころもちが食べたいというので、買ってきてやったが、「人の見てる前では食べられないたちなんで・・・」と言うから、うちの壁の穴から覗いてみると、西念がずた袋をあけて逆さにすると一分金、二分金が山のようにでてきた。あんこをとって金を餅に押し込んでは飲み込み始めたが、最後のひとつを飲み込んで参ってしまった。葬式を取り仕切って焼き場でこの金をふんだくって、西念の供養をして目黒に餅屋を出して繁昌したが、これが江戸の名物黄金餅の由来とされる。【黄金餅】
この噺は、西念の遺体をいれた菜漬けの樽をみんなで担いで、下谷の山崎町から麻布絶口(あざぶぜっこう)釜無村の木蓮寺まで運ぶ道筋を詳しく言わなければいけないので、非常にくたびれる。
貸本屋の金蔵(きんぞう)
品川の白木屋という女郎屋にいる花魁(おいらん)のお染に心中の相手にされた間抜けな男。海に跳び込もうというので桟橋まできたが、ぐずぐずしているので、お染が「先に行っておくれ、あたしもすぐ行くから」といって金蔵を突き飛ばしておいて、続いてすぐ跳び込もうとするところを、店の若い衆に止められた。番町の旦那が金をもって来てると言う。金ができりゃ死ぬこともないんで、「ちょいとォ〜、金さぁ〜ん、早かったよ〜・・・、お線香あげて拝んであげるから・・・、いろいろお世話になりました。さよなら、失礼」なんて、ここまでコケにされた金蔵はしこたま水を飲んで立ち上がると、品川は遠浅なんで水は膝までしかない。「こん畜生、だましやがって、取り殺すからみてろっ」といったが、帰るところがないので親分のところへ。親分の家では若いヤツがまあるくなって、がらッぽんの真っ最中で、そこへ金蔵がどんどんどんと戸を叩いたから、「手がはいった!」と大騒ぎ。押入れに隠れたり、梁につかまったり、台所の上げ板を踏み外して急所を打つヤツや与太郎が手水場に落っこちるなど大騒動を引き起こした。【品川心中】どこまでも間抜けな男である。
赤螺屋吝兵衛(あかにしやけちべえ)
無類の吝嗇(りんしょく;けち)で一代を築いた男。自分が死んだ後、この身代が心配でしかたがない。そこで三人のせがれ、金之助、銀次郎、鉄蔵にそれぞれの料簡を聞いてみた。上のふたりはどちらも派手なとむらいで、ひどく入費がかかりそうな話をするので追い返すが、末の鉄蔵は徹底的に入費をかけないというので親父は身を乗り出す。「葬儀社に棺を頼むのも無駄なので、おとっつあんには菜漬けの樽にはいってもらって、荒縄を十文字にかけて、てんびん棒を通してかつぎます。人夫を頼むとお金がかかるので、先棒は自分がかつぎますが、後棒に困ります」というと「心配するな、俺が出てかつぐ」。【片棒】
貸本屋の善助(ぜんすけ)
夜、寝ながら月見をしたり、雨の日は傘をさすというあばら長屋に住んでいる。同じ町内の銀之助という道楽息子の声色がうまく、これを見込まれて銀之助が吉原の花魁のとこに行っているあいだ、親父に内緒で二階にいて身代わりをするはめになった。親父が階下からいろんなことを聞くが、なにしろ聞いてないことばかり。しどろもどろに答えていたが、そこに銀之助が置き忘れた花魁からの手紙を発見。読んでみると、自分のことが書いてある。よく読むと、「善公はいけすかないやつ」だとか、「こないだ名代床(みょうだいどこ;寝床)の下に汚き越中ふんどしをとり忘れ、その臭気はなはだしく・・・」、などとあって、善公怒ってつい大声を出したので、とうとう親父が上がってきてバレてしまった。【干物箱】
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