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落語という文字が使われ始めたのは、天明年間(1781~1789)ころと言われるが、当時は”らくご”とは読まず、”おとしばなし”と読んでいた。”らくご”というようになったのは明治20年(1887)ころからで、完全に定着したのは、昭和になってからという。
”おとしばなし”の名のとおり、噺の終わりに”落ち”(”サゲ(下ゲ)”という)があって、噺を締めくくる。噺が盛り上がったところでストンと結末をつける(サゲる)のである。したがって、サゲ方によって気持ちよく終わる場合と、そうでない場合がある。落ちは昔から多くの噺家によって磨かれてきて、現在の形に落ち着いたものだが、どうもしっくりこない落ちもあって、なかなかに難しいシロモノである。
なお、一般的に人情噺には”落ち”はつかない。
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噺のサゲ方
【饅頭こわい】では、若いもんが寄り集まって恐いもの談義になり、蛇がこわい、ありんこがいやだ、などといっているなかで、ひとりだけ松公が「俺なんざァ、こわいものなんかひとつもない!」と大いばり。「ひとつぐらいあるだろう」と問い詰めていくと、だんだん弱気になり「実は饅頭がこわくてしょうがない、見るのもいやだ」という。みんなはあきれたが、日ごろから高慢ちきの松公をこの際、饅頭を見せてとっちめようと、みんなでいろんな饅頭を買ってきて並べると、松公は「こわい、こわい」と言いながら、かたっぱしから食べ始めた。結局みんな松公にだまされたわけで、『やい、松公、てめえがほんとにこわいものはいったいなんなんだ?』『このへんで、濃ィーいお茶が一杯こわい』。
・・・という具合にサゲるのである。非常にすっきりとして、聞くほうも納得が行く。
饅頭がこわい、などとバカバカしいと思うが、松公はほかの連中が、なめくじだの、おけらだの、ありだのと、取るに足らない虫けらを恐がっているのを見て、「こわいものなんか、あるもんか!」と大見得を切り、計算ずくで「饅頭がこわい」と装ったのだが、それを真に受けて饅頭を買ってきて、しゃれでいたずらをしようとして、逆にだまされる仲間の連中がきわめて落語的である。
この落ちのフレーズはよく知られているせいか、「〇〇が欲しい」ときに「〇〇がこわい」などと使う人もいる。
また、場違いなものを形容するのに【目黒のさんま】というが、これは同名の噺からきている。
わずかな供を引き連れ、目黒に狩りに出かけた殿様、空腹をもよおして立ち寄った百姓の家で、魚河岸から仕入れたばかりのさんまの直火焼きを、生まれて初めて食したが、そのおいしさに感激し、お城に帰った後もその味が忘れられずにいた。あるとき呼ばれて出かけた親戚で、お好きな料理をなんなりと・・・との申し出に、さんまを所望する。脂や小骨が多く、そのままでは殿の体に差しさわりがあるだろうと、さんまは蒸され、小骨は毛抜きで一本一本抜かれて、吸い物になって出てきた。かすかにさんまの味がするが、目黒で食べたものとは全く違う。殿様、不審に思い『ときに、このさんま、いずこより取り寄せたのじゃ?』『ははあ、日本橋魚河岸にござります』『なに、魚河岸?・・・それはいかん。さんまは目黒にかぎる』
これも落ちとしては非常にすぐれたもので、最後のひとことで殿様の置かれた立場やら無邪気な性格が伝わってくる。また、これを転じて「目黒名物のさんま」として、目黒駅前商店街では秋になると「さんま祭り」と称して日本橋魚河岸ならぬ、宮古漁港直送のさんまを炭火で焼き、無料配付して、しっかり宣伝に利用したりしている。
しかし、このようなすぐれたものばかりではなく、実際にはちょっと無理な落ちもある。
【三方一両損】や【大工調べ】などの落ちは、いわゆる駄洒落や語呂合わせで無理に作ったと思われる、あまりいただけないものになっている。
「三方一両損」では、喧嘩の裁きのあとに喧嘩の当事者(左官の金太郎と大工の吉五郎)に食事をふるまう場面で、『両人いかに空腹じゃからとて、あまりたんと食すなよ』という大岡越前守の言葉に対して、『へへ、多かあ(大岡)食わねえ』『たった一膳(越前)』と、大岡越前守をもじった駄洒落で返してサゲとしている。
「大工調べ」では、お白洲で因業大家に勝訴した大工の棟梁(とうりゅう)政五郎が奉行から「うまくいったようであるな」と声をかけられ、奉行の『さすが大工は棟梁(細工は流々)』に『へえ、調べ(仕上げ)をごろうじろ』と返してサゲる。つまり、「細工は流々、仕上げをごろうじろ」の語呂合わせである。
両方とも講談の裁き物から落語に仕立てた噺で、落ちをあとからつけたために、どうしてもこのような無理な落ちになったと考えられる。
このように落語では、すぐれた落ちは噺の余韻が残って納得がいくが、そうでないものは本体の噺が面白くてもその落ちによって面白さが半減してしまうこともしばしばである。このため、噺家の判断で落ちまでやらずに途中で話を打ち切ることがある。
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落ちの種類
・拍子落ち |
調子良く噺が進んで落ちになるもの。 |
・地口落ち |
洒落や語呂合わせが落ちになっているもの。地口とは駄洒落のこと。 |
・途端落ち |
仕込みも洒落も使わず最後の一言でスッキリときまる落ち。最後の一言で見事に結末がつく。 |
・間抜け落ち |
間抜けなことや、奇抜なことで落ちにする。 |
・ぶっつけ落ち |
相手の言う意味の取り違えが落ちになるもの。 |
・見立て落ち |
意表をつく物に見立てて落ちにするもの。 |
・仕込み落ち |
いきなりではわからないので、前もって伏線を張って落ちを仕込んでおくもの。 |
・考え落ち |
ストレートにわかる落ちではなく、少しひねった表現でわからせる落ち。 |
・逆さ落ち |
物事や立場が入れ替わる事の面白さを落ちにする |
・廻り落ち |
まわりまわって元に戻る事が落ちになるもの |
・仕草落ち |
仕草が落ちになっているもの。 |
このように落ちの種類は多いが、どれにあたるかを判定するのが難しい落ちも多い。いずれにしても、最後に自然と笑えるものがすぐれた落ちといえるのだろうが、その判断は聞き手のセンスによる。
因みに、上記の噺では、つぎのようになる。
【饅頭こわい】・・・「拍子落ち」または「ぶっつけ落ち」とも考えられる。
【目黒のさんま】・・・「間抜け落ち」
【三方一両損】、【大工調べ】・・・「地口落ち」
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