中央アルプス 千畳敷カール
1967年8月、会社の同僚と三人連れで中央アルプス駒ケ岳をめざして飯田線駒ヶ根駅から登山口までバスでゆき、そこから歩き始めて5時間かかってやっとここ千畳敷カールにたどりついた。その当時、ふもとからはロープウェイが開通したばかりだったが、あえてそれに乗らずに歩いた。しかし、30分もしないうちに後悔した。汗だくになって斜面を登っている頭上をスイスイ通り過ぎてゆくロープウェイはまったく恨めしかった。それでもなんとかがんばって、ここまで来たときはもうメシを食べる気もしないほどだったが、この風景をみてそれも吹っ飛んだ。カール(圏谷;けんこく)とは氷河の侵食によって山頂から下がすくいとられるように円形に削られた地形で、みごとな景観を作り出す。この千畳敷もすばらしい眺めである。
その日の泊りは、写真の中央左寄りのガスがかかっている宝剣岳の肩にある山小屋なので、さらにそこまで登らなければならない。時刻は午後2時か3時ごろだったが空模様もあやしくなっているので、急いでガレ場を登り山小屋に着いた直後にものすごい雷雨が始まった。まさに間一髪だったが、山の雷の怖さを初めて体験した。とにかく雷雲の真っ只中で、そこらじゅうに落雷するらしく、そのたびにドドーンとかピシャツという大音響ですごい迫力である、おまけに、空気が帯電のせいでオゾン臭くなっており、さらに小屋のなかに張ってある物干し用の針金が帯電してジジッ、ジジッと鳴っている。金属のものをさわるのが怖くて夕食のカレーライスはスプーンをやめて箸で食べた。翌朝、ゆうべの雷雨はうそのように晴れ上がったが貴重な体験だった。