蘊蓄・鉄道コラム
北海道新幹線のその先

来年3月に開業する北海道新幹線の東京−新函館北斗間が最速で4時間2分となるそうだ。地元では飛行機との競争に対抗できるといわれる4時間を切らなかったといって大騒ぎの模様。青函トンネル内での速度制限がネックとなるのだが、実際にはそれ以外での速度制限が影響していることが考えられる。
青函トンネル内とその前後の82km区間ではレール幅が違う新幹線と在来線が同じ線路を走る構造になっている。そのために3線軌条といって3本のレールが敷かれていて、そのうちの1本を共有する方式となっているのだ。それが複線敷かれているので新幹線列車と在来線列車がすれ違う場面がある。そのときに風圧によって車両同士が影響しあうことが問題になってくる。速度が大きければそれだけ大きい力が双方の車両の側面にかかる。時速200km超に対応していない在来線列車では、車両の重量や形状によっては横倒しになることも考えられる。とくに台車の上にコンテナが載っているコンテナ貨物の場合にはコンテナだけが吹き飛ばされる可能性もあるのだ。そのため、線路共有区間の速度制限140km/hは今のところやむを得ないだろう。

ところが、それ以外の地上区間でも速度制限がされているところがあるのだ。東北新幹線では「はやぶさ号」が320km/h運転をしている。この速度で走る区間は実際には宇都宮−盛岡間だそうだが、盛岡を過ぎると最高速度そのものが260km/hに制限されてしまうのだ。それは、技術的な制約ではなく制度的な制約から来ているというのだ。
実は、東北新幹線の盛岡以北は整備新幹線としてつくられたものだ。このことが法的に営業最高速度を260km/hと規定しているのである。そのために鉄道会社の一存で260km/h以上で列車を走らせられないという、おかしなことになっているのである。この整備計画が作られたのは1973年で、当時の新幹線の最高時速は210km/hだった。そこで今後整備する新幹線は性能向上を考慮して最高速度を260km/hと定めたという。しかし、その後の既存の新幹線の性能と速度向上は目覚ましく、300km/h超の時代に突入している。にもかかわらず、整備新幹線の建設では260km/hの規定がそのまま適用されているのである。最古の新幹線である東海道新幹線ですら285km/hの列車が走っているのに、最新の北陸新幹線では260km/hが限界という珍妙な事実が厳然としてあるのだ。

整備新幹線は鉄道運輸機構というところが線路などの構造物を建設してJRに貸し付けているという。この組織の事業活動を評価する事業評価委員会が、既存の新幹線の速度向上が著しく、300km/h超運転も行われていることや、世界の高速鉄道の動向からも将来的に整備新幹線における速度の引き上げ検討は必要である、との指摘をしたらしい。これに対して同機構では、260km/hの最高速度は国から認定を受けたもので、自分たちの一存で300km/hに引き上げるわけにいかない、とこれまたお役所回答をしているという。一方で構造物は320km/h運転にも耐えられるとの見解も示しているらしい。

北海道新幹線はその後、2035年まで札幌を目指してさらに伸びる。そのときに今の260km/hの最高速度のままでは東京からの所要時間は5時間超となるという。そうなるとおそらく飛行機にはまったく勝てないだろう。もし、360km/h運転であれば4時間以内で到達できるという試算もある。これからも技術的な発展はあるだろうし、不可能な話ではない。しかし20年も先の話ではなく、目先に迫った来年開業の区間だけでもなんらかの形で260km/h制限を緩和できれば、大幅ではないにしても4時間の壁は越えることはできるのではないか。そんな努力をしてもらいたい。

北海道民にとって新幹線の導入は悲願だったそうだ。たしかに北海道の広大な大地を短時間で移動するには新幹線はうってつけの交通機関に違いない。しかし、かつて道内にあった多くの鉄道が採算を理由に廃止になってしまったことを考えれば、巨額の建設費がかかる新幹線は地元民自身が慎重に考えるべきだろう。

「4時間の壁」問題はあるものの、とりあえず北海道新幹線は来年の開業後しばらくの間は本州各地からの利用客でにぎわうだろう。しかし、その先の「北海道における新幹線」の展望を描いておかなければならない。JR北海道のレールの行く先は決して平坦ではない。
(2015.12.06)

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