近鉄路線網の妙
近鉄(近畿日本鉄道)は近畿・東海の2府3県に23路線を広げる日本最大の私鉄である。その路線総延長は508kmにおよんでいる。

近鉄といえば、昔から有料特急の運転に力を入れているが、その広範な路線網の隅々まで縦横無尽に華やかな特急列車が走り回っている。名古屋−大阪難波や京都−賢島といった長距離の特急列車は、目的地に達するにはいくつかの路線を渡り歩いて行く。たとえば名阪特急では、名古屋線→大阪線→難波線を通り、京都−賢島間の京伊特急では、京都線→橿原線→大阪線→山田線→鳥羽線→志摩線を通って行くのである。当然、各路線は線路がつながっているわけだが、路線図などで見ると直角に立体交差していたり、合流していたりという線形になっているところがある。立体交差では相手側に行くのは不可能である。合流している場合はいったん合流地点を過ぎてからスイッチバックしなければならない。どうやって直通を実現しているのだろうか。
実は、路線が接続するジャンクションに地図上には表われていない工夫がされているのである。そこには、立体交差や合流を迂回するための線路が敷かれているということだ。一般に連絡線や短絡線などと呼ばれるが、これにより、スイッチバックなどをしないでそのまま通過することができる。また複数の路線が接続するところでは、いかようにも進めるように複雑な分岐線路が構成されているところもある。このようなジャンクションは少なくとも3か所(上図赤字)あり、近鉄路線網の要衝となっている。共通するのはいずれも平面交差である。

■新ノ口(にのくち)連絡線
大和八木駅では大阪線が橿原線を直角にオーバークロスしている。ここでは橿原線のひとつ手前の新ノ口駅先から連絡線が分岐し、大きく迂回して大阪線上り線の大和八木駅手前で合流している。この連絡線では橿原線大和西大寺方面から大阪線伊勢中川方面およびその逆方向の通行が可能である。この連絡線は京都と伊勢志摩をむすぶ京伊特急が往来する。

■中川短絡線
伊勢中川駅は名古屋線と大阪線が合流し宇治山田方面への山田線の起点だが、名阪特急の場合には、当駅でスイッチバックを余儀なくされる。そこでスイッチバックを避けるために手前で名古屋線と大阪線をつないでつくられたのがこの短絡線である。名阪特急のすべてがこの連絡線を通過してゆく。現在、新しい線路の付け替え工事が始まっているようだ。(下写真)
また、この短絡線では名古屋・大阪難波間のノンストップ特急(アーバンライナー)において徐行走行中に運転士の交代が行われる。

中川短絡線付け替え工事中(宇治山田ゆき特急車内から)

(2011.11.13)


■大和西大寺ジャンクション
大和西大寺駅は奈良線・京都線・橿原線が合流するが、駅の前後にある平面交差のポイント群はきわめて複雑なジャンクションを構成している。下は2番ホームから奈良側を見た写真。右斜めに横切っているのは橿原線と車庫線。
大和西大寺駅の歴史は古く、1914年(大正10年)に大阪電気軌道が上本町駅−奈良駅間を開通させたときに「西大寺駅」として開業した。当時は中間駅のひとつだったが、その後橿原神宮方面や京都方面の路線が開通すると西大寺駅に接続するようになり、分岐駅として形成されていった。それらの路線は早くから相互に直通運転をしていたため、西大寺駅は分岐だけでなく交差する線路配置が行われ、隣接する車両基地との接続線もあって現在のような非常に複雑で大規模なジャンクションとなった。かてて加えてこのジャンクションのすごいところは、往来する列車の本数である。平日の1日の列車の総数は、特急147本、その他730本の合計877本におよんでいる。これだけの列車をポイントの切り替え操作でさばいてゆくのだ。まさに95年の歴史に培われたおそるべきジャンクションである。

大和西大寺駅における列車の発着
・大阪方面→近鉄奈良行きのみ
・奈良方面→奈良線経由大阪難波・尼崎・三宮行き、京都線経由京都・京都国際会館行き
・京都方面→近鉄奈良・橿原神宮前・賢島行き
・橿原神宮前方面→京都線のみ
大阪方面と京都方面および奈良方面と橿原神宮前方面との行き来はできない。

(2011.11.16)