鉄道の敷きかた

JR東海が2025年に開業を目指している、リニア中央新幹線(東京−名古屋)の建設が予定通りに行かない可能性がでてきた。理由は5兆1千億に上る建設資金である。JR東海では当初(2007年)の計画で、東海道新幹線の収益力が高いことから、毎年3千億円余りをリニア建設に回して自前で建設できるとしていた。しかし2008年秋以降の景気悪化により東海道新幹線の利用者が減り、2010年3月期の連結純利益が2008年3月期の半分になる見通しになったという。そのため、資金計画を見直すことになったのだ。ドル箱の東海道新幹線の収益が悪化したとなってはむべなるかな、ではあるが、全額を自前で負担するというからには慎重に進めるのが企業としては当たり前のことである。その結果、無理であれば中止にするというのが正しい判断だろう。ゆめゆめ国に支援を求めるようなみっともないことはやめてもらいたいものだ。

このリニア新幹線は東京−名古屋間を1時間以内で結ぶというものだが、そのために最短距離をとって線路はほぼ一直線に敷かれる。当然、南アルプスなどの山岳地帯ばかりを走るので、ほとんどがトンネルだという。駅は通過する各県に1か所ずつ設けるらしいが、その場所も山の中になるところもある。それでは不便なので、もっと市街地近くに迂回してくれという要望もある。それは当然の要望である。だが、そもそもこの新幹線は東京と名古屋、将来的には大阪の3都市を行き来する利用者だけのものだ。途中駅はお情けで作るようなものなのだ。だから駅の建設地などはあまり斟酌しない。

鉄道はもともと人の住んでいるところをつないで敷かれてきた。そのため地図で見ると昔の街道に沿って走っている例が多い。だからくねくねと曲っていて沿線の住人が利用しやすいようになっている。つまり乗ってくれなければ鉄道は成り立たないのである。逆に鉄道が通ることで人の往来が増えて地域が活発になるという関係がある。しかしそれが人口の多い大都市間の往来が頻繁になってくると、その間を速やかに移動する速達性が求められ、急行や特急といった優等列車が運転されるようになった。それにつれて途中の町や村はだんだん取り残されるようになった。そしてさらに高速の鉄道が必要になり、都市間をできるだけ短距離で結んで所要時間を短縮するような線路を敷くという考え方になってくる。新幹線時代の幕開けである。

それでも東海道・山陽新幹線は大体が在来線に沿っていて海沿いの人口の多い地帯を走り、在来線との連絡にも配慮している。しかし上越新幹線以降になると山岳地帯を長大なトンネルで一直線に抜けるために、まったく人里から離れたルートを通ることが多くなり、途中駅はとんでもない山の中にできるということも珍らしくなくなった。その究極がリニア新幹線だろう。これはもはやこれまでの鉄道という概念からはかけ離れたもので、人間を時速500kmという超高速で荷物のように移動させるだけのものである。車窓だってトンネルばかりでは旅行などという風情ではなく、暗闇をひたすら目的地に向かって突進しているだけのことである。考えてみれば実に滑稽な光景が思い浮かぶのだ。名古屋まで数十分で行かなければならない人などはいったいどれだけいるのだろうか?たしかに現在、東海道新幹線の東京と名古屋間はいつも混んでいる。名古屋を過ぎるとがらがらになる車両もある。多くはビジネス客と思うがこのような需要だけで採算がとれるのか?ましてや今後日本の人口は減る傾向にある。15年先の社会経済状況が右肩上がりとは到底思えないのだが。。。どれもこれも大いなる疑問である。

東京−大阪間はいまの新幹線のスピードで十分である。なにをそんなに急がなくてはいけないのか、理解できないし、この鉄道が走る地理的な範囲から考えても恩恵を受ける人はそう多くないと思われる。JR東海はいまや民間鉄道会社であるが、失敗すれば会社の存続にかかわることもあるだろう。JALの二の舞いにもなりかねない。しかしJALは代替えエアラインがあるが東海道新幹線にはそれがない。止まったら社会に与える影響は計り知れない。
(2010.03.06)