JR最急勾配 鉄道は鋼鉄のレール上を鋼鉄の車輪が転がることによって車両が進むのだが、車輪とレールはきわめて小さな点で接しているため摩擦が小さく、比較的小さな力で動かすことができ、直線・水平の線路上では惰性で長時間転がり続ける特徴がある。その一方で摩擦が小さいということは滑りやすいことでもある。動力車輪にパワーをかけすぎると空転してしまうことはしばしば起きることである。とくに上り坂ではその傾向が強く、昔の蒸気機関車はレールに砂を撒いて車輪との摩擦を保ちながら登っていた。 鉄道の勾配を示す単位をパーミル(‰)といって、水平に1000m走る間にかせぐ高度で表わす。例えばそれが20mであれば20‰ということになる。日本の鉄道は山地を走ることが多く、トンネルの掘削技術があまり発達していなかった時代には坂道を登らざるを得ず、国鉄時代には多くの勾配区間が作られた。そのなかで、最も急な勾配は信越本線の横川−軽井沢間の碓氷峠越えの66.7‰だった。これは角度に換算するとわずか3.82度になる。鉄道にとって坂道は苦手なのだ。この66.7‰の勾配を走るためには特別な対策をしていた。それは2両の補助機関車を列車の後ろ(横川側)に連結し、横川からは勾配を押し上げ、軽井沢からは抑速ブレーキとして勾配を下るという方式である。このため、横川、軽井沢両駅では列車が着くたびに機関車の連結・切り離し作業が行われていた。 その後、碓氷峠越えは北陸新幹線(当時は長野新幹線と呼んだ)の開業で廃止になり、信越本線は分断された。因みに、北陸新幹線は一ノ瀬トンネル(6165m)および碓氷峠トンネル(6092m)を合わせた12.2kmにおよぶトンネルで碓氷峠の下を抜けるが、その区間は30‰の勾配となっている。これは同新幹線の飯山トンネルとともに全国新幹線中の最大勾配である。 碓氷峠越えが廃止になったことで、JRにおける現在の最急勾配は飯田線の沢渡駅−赤木駅間にある40‰となった。先日、飯田線に乗って駒ヶ根から中央アルプスの千畳敷カールに行ってきた。帰途の駒ヶ根駅からの下り電車は平日とあってガラガラだったので、早速カメラを持って最前部にカブリツいた。標高674mの駒ヶ根駅からは伊那市駅に向かって下り坂や上り坂が続く。そんな運転士目線の風景を楽しんでいると、前方にとてつもないものが見えてきた。いきなり線路が落ち込んでいるのだ。とっさにカメラを構えてシャッターを切った。電車はこともなげに進む。撮った画像をモニターで確認すると、なんと!線路際に40.0‰の勾配標識が写っていた。最急勾配が存在することは知っていたが、この場所がそうだったのだ。前日にも上り電車で通ったがカブリツキではなかったので気が付かなかったのだ。飯田線には今回初めて乗ったが、線路マニアとしては思わぬ収穫だった。 なお、JR以外の鉄道には40‰を超える勾配を持つ路線はざらにある。それらの鉄道ではモーター出力を強化した全電動車編成や強化ブレーキなど、急勾配を走るための対策をしている。現在、レールと車輪の粘着力だけで走る鉄道では箱根登山鉄道の80‰が最急勾配となっている。粘着式ではなく、日本唯一のアプト式では大井川鉄道の井川線の90‰が最大である。 (2016.10.18) |
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