東京メトロ 副都心線開業
2008年6月14日、東京メトロの副都心線が開業した。この路線は営団地下鉄が東京メトロとなってから初めての新線だが、同時に東京では最後となる地下鉄新線である。これにより、昭和2年(1927)に上野-浅草間で最初の地下鉄が開通してから81年にして東京の地下鉄ネットワークは完成したのである。最終的に東京の地下鉄は都営地下鉄を含めて、13路線、総営業キロは304.1キロとなった。各路線には路線番号がつけられているが、これはだいたい海側から山側に順に付けたものらしく、必ずしも古い順ではなさそうである。ちなみに1号線はもっとも海側の都営浅草線で、もっとも古い銀座線は3号線である。副都心線は13号線で、文字どおり最後の番号となっている。(別表参照

副都心線はその線名のとおり、池袋−新宿−渋谷の副都心エリアをむすぶ路線で、池袋以遠は和光市駅で東武線、小竹向原駅で西武線と相互乗り入れをする。池袋−新宿−渋谷区間はJR山手線、埼京線がこれまでのメインルートだったが、この区間の山手線はラッシュ時の混雑がひどく、副都心線はそれを緩和する効果が期待される。しかしそれ以上に、これまで池袋でJRに乗りかえていた東武東上線、西武池袋線沿線の利用客をそのまま3大商業エリアに流し込もうという狙いが大きいと言われる。東京メトロとしては1日15万人の乗降客を見込んでおり、対するJR東日本ではなんと11万人の減少を予測しているというから、人の流れが大きく変わることは間違いないのだろう。

このような状況を受けて、3大商業エリアを中心とする沿線では、この大きな人の流れを取り込もうと大合戦になっているそうだ。とくに新宿と池袋のデパート同士の競争は熾烈で、それぞれ100億円以上の費用をかけて新装や改装をして、あれやこれやの戦術で迎え撃つという。そのほか、古い東京が残る雑司ヶ谷周辺でも新線開通で町おこしをしようとする動きが活発で、地下鉄が運んでくる人たちにいかにして立ち寄ってもらってお金をおとしてもらうか、知恵を絞っている。

鉄道が通れば沿線の利用者には便利になる。と同時にいろんなところから人がやってくる。人が動くことで商業的にも文化的にも交流が活発になり地域は発展する。しかし人が動いても駅で降りてくれなければそうはいかない。ターミナル駅周辺では必然的に乗客は列車を降りることになるので良いが、途中駅はなんらかの工夫をしなければならない。副都心線の開業で、ターミナル駅から途中駅になってしまう池袋では利用客の流れに相当の危機感を募らせているという。蓋を開けてみなければわからないが一定の落ち込みは避けられないだろうと思われる。

このように鉄道の開通や列車の停車・通過によって一夜にして状況が変わることはよくあることで、それだけに沿線地域の鉄道への関心は高いのである。一方、鉄道会社としては多くの人に利用してもらうことが主眼だが、当然沿線の発展と大きく相互依存関係にある。それを互恵(Win-Win)関係にもってゆくには鉄道会社と地域の協力にかかっている。

4年後には東急東横線が新しい渋谷駅に乗り入れ、直通運転を始めることになっている。これにより、さらに東京南西部から神奈川・横浜エリアにまで路線のネットワークが広がる。ここ当面は東横線をはじめとする東急沿線の利用者にとって今回の新線開通はあまりインパクトがないものの、4年後にどうなるか楽しみではある。


副都心線は渋谷駅から埼玉県和光市駅までの20.2営業キロを運行する。そのうち小竹向原駅−和光市駅までは有楽町線と重複し、線路や駅設備などを共用する。そのため、東京メトロでは副都心線の営業キロを渋谷−小竹向原間の11.9キロとしている。小竹向原からは西武有楽町線に分岐し、その先の練馬駅で池袋線に合流して飯能方面に伸びる。一方、和光市駅では東上線に合流して、志木、森林公園方面につながる。これらはすでに有楽町線として運行されているが、今回さらに小竹向原駅から副都心線が合流することになったのである。この結果、小竹向原駅では、非常に複雑な運行形態をとらざるを得なくなった。つまり、この駅では上り方向では「和光市方面からの新木場方面ゆきと渋谷方面ゆき」および「西武線方面からの新木場方面ゆきと渋谷方面ゆき」の4種類の列車が通り、下り方向も逆の4種類の列車が通る。都合8種類の列車をそれぞれの行き先に従って振り分けなければならないのである。このように複雑な相互乗り入れでは列車遅延の影響が全体にわたって広がるというリスクが大きい。その意味で、おそらくこの小竹向原駅はなんらかのネックになるのではないかと考えられる。

それはさておき、開業の翌日(6月15日)に渋谷駅−和光市駅および小竹向原駅−西武線の練馬駅を乗車してきた。そのうち雑司ヶ谷駅までのまったく新しい各駅では下車して駅や周辺を駆け足で見てきたので報告する。(2008.06.19)

渋谷駅は東急電鉄が建設し管轄するため、駅名表示も東急方式で、以下の東京メトロとはまったく違うデザインとなっている。

東急渋谷駅東口前にできた新しい入口。地下鉄銀座線の高架線路の真下にある。
新しいサインシステムとして、コンコースの柱全体が案内板となっているのは面白い試み。内側から照明されているので見やすい。
建築家安藤忠雄氏の設計で話題になったホームの吹き抜け。地下と地上の空気の流れを循環させる効果をねらったとか。さらに頭上が高いので地下の圧迫感がない。
現在、暫定的にホーム全体が新宿寄りに作られているので、この吹き抜けは横浜寄りに位置する。4年後にはホームが横浜寄りにのびて、この場所は本来のホーム中央部にくることになるのだろう。


ワンマン運転とホームの安全対策のため、ホームドアを設置。ただし氷川台−和光市間は未設置。
こういうものができると、鉄道少年もラクじゃない。
4年後に東横線の新しい渋谷駅となるためプラットホームは2面4線構造になっている。当面は外側の2線を使用するが、内側の2線もすでに線路が敷かれており、これに蓋をする形で2面のホームは1面として使われる。部分的に内側の線路が公開(?)されているのは面白い。
新宿方向のトンネルと分岐ポイント群。現在使われているのは外側の2線のみ。この光景は4年後には見られなくなる。
ポイントを渡って進入してくる東京メトロ10000系電車。
明治神宮参道と明治通りとの交差点の下にある。千代田線とJR山手線(原宿)に乗り換えできる。

各駅にはその立地や特徴などからそれぞれコンセプトを持たせていて、それを表わす色とテーマを、駅名表示板の背景としてデザインしている。
神宮前交差点方面改札
神宮前交差点のすぐ横に作られた新しい出入口。明治神宮参道入り口を示す燈籠が建つ。
明治神宮北参道に続く道路と明治通りの交差点付近にある。都営大江戸線が近くを通るが乗り換えの便はない。
こちらは南側出入り口。
神宮北参道や国立能楽堂は北側出入り口が近い。
駅前の明治通り。地下鉄工事後の修復工事中。このあたりは道路の両脇をマンションやオフィスビルが並ぶが、JRや地下鉄の駅からも遠く、繁華な雰囲気はない。
新宿三丁目交差点を中心に明治通りの下を高島屋から花園神社付近までを750メートルにわたる地下道でむすぶ。
丸の内線と都営新宿線に乗り換えできる。
ところどころ吹き抜けになっており、コンコースからホームを見ることができる。
丸の内線ホームにも直結している。
デパート戦争の中心、高島屋と伊勢丹にはそれぞれ地下道でつながっている。
ホームは二層式で地下5階(渋谷方面)と6階(池袋方面)となっている。
都営大江戸線に乗り換えできる。
出入口。都営大江戸線と共用。
この駅ではホームの片側に急行列車用の通過線があり、パネルで仕切られている。(写真右側)これをはずせばホームとして使える。
このような構造の駅としては、東急田園都市線の桜新町駅がそのさきがけとなったが、こちらは急行線は壁で仕切られていて完全に分離されている。
急行線を通過する急行列車。
早稲田大学、学習院女子大学ほか多くの中高校が集まっている文教地区にある。

この先、雑司ヶ谷駅との間は最大深度41メートルで神田川の下を潜り抜ける。
南側の早大理工方面改札を通ると、そのまま早大大久保キャンパスにつながっている。
明治通りに面した早大大久保キャンパス。大隈候の胸像が校舎に向かってにらみをきかせる。
神社や寺が点在する古い東京が残る地域。有名な鬼子母神がある。
都電荒川線に乗り換えできるが、いったん外に出る。
目白通り口。目の前を目白通りが走る。
都電荒川線乗り換えには鬼子母神前駅(電車が停まっているところ)が近い。本来の雑司が谷駅はその先にあるが、副都心線にその名を譲って「都電雑司が谷」となった。
古い東京が残るとはいえ、高層ビルが林立し始めている。奥に見える高層ビルが池袋サンシャインビル。
この駅は一足先に「新線池袋」として開業しており、小竹向原から一部の列車が乗り入れていた。途中の要町、千川は未開業だった。

副都心線を走る電車
副都心線には各社の新鋭車両を含め、5系列の車両が走る。
車両の運用は有楽町線ともに東京メトロと東武・西武は相互乗り入れをする。そのため西武鉄道の車両が和光市駅に顔を見せることがあるが、東武と西武の相互乗り入れはない。

東京メトロ

10000系 10122編成  和光市駅
2006年に登場した副都心線用に製造された最新鋭車両。有楽町線でも運用される。10両編成のほかに8両編成(副都心線のみの運用)がある。  


7000系 7115編成   和光市駅
有楽町線用として1974年に登場したが副都心線用に一部を転用した。乗り入れ対応の各種改造(ワンマン運転など)のほか、車体の帯の色が従来の有楽町線の黄土色(東京メトロでは”ゴールド”と称している)に副都心線の茶色が重ねられている。これは10000系も同様。10両編成と8両編成がある。写真は8両編成。正面に
”8CARS"の表示がある。

東武鉄道

50070系 51072編成   和光市駅
2005年に東上線に投入された50000系シリーズの派生型で、副都心線と有楽町線乗り入れ対応の新型車両。50000系列には、伊勢崎線から東京メトロ半蔵門線と東急田園都市線乗り入れ対応の50050系、東上線の新サービスである座席定員制列車「TJライナー」用の50090系がある。


9050系 9151編成   和光市駅
この系列は東上線系統のみで使われる9000系(1981年登場)をマイナーチェンジしたもの。東上線本線のほか副都心線、有楽町線で使われる。9000系とともに副都心線でのワンマン運転などの対応工事が施された。

西武鉄道

6000系 6106編成   練馬駅
1992年に有楽町線との直通運転用に登場したが池袋線全線でも活躍している。副都心線乗り入れ対応の改造を受けた車両は前面を白色に塗装している。
関連ページ ・鉄道総合ページ「鉄道少年のなれの果て」
・「西武鉄道練馬駅」
・「東武鉄道和光市駅」