八高線行脚

八王子10:46発の川越行きに乗ると、高麗川駅で高崎行きに接続する。近代化されたといっても、10時〜16時頃までは1時間に2本しか運転されない。乗り遅れるとすべてのスケジュールが大幅に狂ってしまう。早めに家を出る。自宅から東横線、横浜線経由で八王子まで約1時間半であるが、そのうち横浜線の菊名〜八王子間がけっこう乗りでがある。昔は横浜線もローカル線の代表みたいな路線だったが、根岸線直通や新幹線の開通以降、沿線の開発が進み、重要な通勤路線として整備されて、いまや快速電車が走る。

八王子駅は3面6線のホームとなっている。横浜線は南端の5番6番線に発着する。八高線は北端の1番ホームで、2番線の中央線上り線と共用している。2番線はひっきりなしに上り列車が着いては発車してゆく。特急列車などもやってくる。しかし、1番ホームはあいたままで、なかなか電車がこない。早くもローカルっぽくなってきた。ひまなのでホームの端から端を探索する。駅構内はかなり広く、JR貨物のヤードが併設されていてディーゼル機関車DE10や、遠くに巨大なEH200型電気機関車が停まっているし、EF65が貨物列車を引いて発車したりしてにぎやかである。じっくり写真を撮りたいが残念ながら今日は時間がない。

10:46発川越行きがやっと入線してきた。209系の4両編成である。下りが混むのか、上りが混むのかわからないが通勤時間帯は過ぎているので車内の込み具合は70%くらいである。八王子を発車すると線路はすぐに単線となって、中央線と別れて北上する。線路の周りは夏草が生い茂り、つる草が線路まで伸びてきている。そのなかを掻き分けるようにして進む。多摩川の長い鉄橋を渡ると3つ目の拝島に着く。立川から来た青梅線と並び、西武拝島線も来ている。ここからは五日市線が武蔵五日市に向かって伸びる。大部分の人たちがここで降り、車内はガラ空きとなった。ここで友人のN君と合流する。

拝島を出ると、しばらく右側の米軍横田基地に沿って走る。滑走路の先を横切るときに両側をコンクリート壁で囲まれた溝のなかを通過する。これは、横田トンネルといって、航空機事故から鉄道を護る目的で当初はトンネルであったものが、電化されたときに架線を張るために上部を取り払った結果、溝のようになってしまったという、八高線の名所のひとつである。

埼玉県にはいって2つ目の駅、東飯能は八高線が最初に開通したときの終点である。ここには西武線がきていて、秩父方面に向かって山の中にはいってゆく。つぎの高麗川で電車は川越線にはいってそのまま川越に向けて東進する。電車を降りるとホームの反対側にJRのキハ110形気動車高崎行きが待っている。

ここからいよいよローカル線の象徴(?)である非電化路線である。さっそく乗り込むとキハ110形はセミクロスシートで、中央部分はクロスシート(ボックスシート)で両端はロングシートとなっている。クロスシートは左側が2列、右側が1列でゆったりしている。ドアは前後の2ヵ所しかないので普通の通勤電車よりずっと広い。さすがにすいていて空席が目立つ。左側の4人がけのクロスシートに陣取る。終点までずっとふたりで占有することができた。

この列車は3両編成で車掌が乗っている。ほかに2両編成のワンマン運転もある。定刻11:45に発車。軽いエンジンの響きとともに、グーッと加速する。キハ110形の加速性能は電車並というが、たしかにその感じはある。それに音も振動もバスなどよりもずっと静かだ。昔のようなディーゼルエンジン特有の臭いも黒煙もなく、気動車も進歩したものだ、と思う。冷房も効いていて快適そのものである。

景色はもう田地田畑である。だんだん山が迫ってくるが山の中を走るのではなく、山のすそに沿った平坦な線路になっている。トンネルはほとんどない。ひょっとすると件の横田トンネルが唯一のトンネルかもしれない。
八高線では無人駅が多く、そのために車内には運賃精算機が設置されているが、ほかに無人駅でも”Suica”のリーダーが駅の改札口に設置されていた。ローカル線といってもこういったところでは近代化が図られているのにはちょっと感心した。

八高線は途中いくつかの他線と交わる。前述した、拝島で青梅線、五日市線、西武拝島線、東飯能で西武秩父線、高麗川で川越線のほかに、高麗川以北では越生で東武越生線、小川町で東武東上線、寄居では東武東上線と秩父鉄道、といった具合である。いずれも電車線である。非電化を貫いているのはわが八高線だけである。しかし、交わる他線もこの辺に来ると立派なローカル線だろう。小川町駅で横に並んだ東上線の池袋行きの長大編成の電車は、なにか持て余しているようにも見える。そう考えると逆に八高線は非常にリーズナブルである。

キハ110は快調に走る。エンジンをふかしているときもそんなにうるさくはないが、惰性で走るときはきわめて静かである。それに、揺れもほとんどないのは保線がいいからだろう。これまでの気動車のイメージを大幅に変える走りである。ふと、外を見ると鉄道マニアが線路近くの道に三脚を立ててレンズを向けていた。かなりの山あいだったがご苦労なことだ、と思ったらこんどは線路際の斜面に陣取っている猛者もいる。多分このあたりは撮影ポイントとして絶好なのだろう。同好の士としては気なるところである。

N君とは久々に逢ったので、昔のことやらいろんなことを話し込んでいるうちに、景色は山あいから平野に変わって単調になってきた、と思ったら群馬藤岡駅に着いた。早くも群馬県に来てしまった。やがて前方に新幹線の高架橋が迫ってきて、この下をくぐると高崎線に合流する。本来の八高線の終点である倉賀野駅を過ぎると終点高崎である。高崎駅までの間にJR貨物のヤードの横を通る。けさの八王子をしのぐ大規模なヤードである。EF65などの電気機関車の群れが休んでいる。車窓からの撮影は無理なのであきらめたが、かなりの迫力だ。
13:05定刻通り高崎到着。2時間19分の八高線の旅はあっけなく終わった。

ひとことで言うと、まことに快適な旅だった。これまでのローカル線の、遅い、車両が古い、線路状態が悪くてゆれが大きいなどというイメージは良い意味で裏切られた。それは車両や保線など技術的な面での進歩が大きいが、JR東日本が進めてきたローカル線のサービス改善努力の結果でもある。国鉄時代には考えられなかったことである。民営化はやっぱり必要なのである。

しかし、沿線地域の産業や過疎化などから集客についてはいかんともしがたく、結果として運転本数が限られてしまっている。八高線のローカル度というのは唯一運転本数が少ない、ということになる。電化されていないことなどはまったく問題にならない。むしろ東京近郊区間中唯一の非電化路線として希少な存在をもっとアピールすればよいと思う。
それに、キハ110を使って八王子から高崎までの直通列車を運行すればよい。ダイヤ的には十分な余裕があるのだから。

高崎では高崎白衣大観音をお参りし、17:14高崎発の湘南新宿ライン国府津行きにて帰途につく。


八高線周辺の車両 高崎白衣大観音 真言宗慈眼院
八高線多摩川鉄橋 八高線横田トンネル