リニア新幹線前倒し論

2020年夏のオリンピック・パラリンピックの東京開催が決まったことで日本中が祝賀気分で沸き返っている。前回の東京オリンピックは49年前だったが、それ以来、日本では札幌と長野で冬季オリンピックを開催している。雪が降って冬のスポーツ施設が完備している都市は世界でもそう多くないと見えて日本は2度も当たったのだろう。しかし夏は競争が激しいし、ここにきて経済成長著しい新興国が名乗りをあげるようになってますます激戦となっている。1964年の東京オリンピックを体験している世代は、それによって東京だけでなく日本中が激変したことも体験している。オリンピックをてこに大きく発展させようとしたその当時の日本は新興国そのものだったのだ。だから、発展=変貌となってあらゆるものが大きく変わったが、良いことばかりではなかった。たとえば、古い町なみを破壊し、醜悪な高速道路が空を覆い、住民から日照と広い空を奪った。東京中でそのようなことが起きたのだが、これもオリンピックのためならやむなし、と多くの人が我慢したのだ。しかし、次の東京オリンピックは状況が違う。もう国威発揚ではなく、東京は成熟した先進都市としてオリンピックを開催するのだ。そのために競技施設などをできるだけ集約してコンパクトなものにするという。しかし、メインスタジアムの国立競技場などは改修と称してはいるが、老朽化しているので建て替えとなるらしい。そのほかでもなんだかんだでいろんなハコモノができるという。それでもオリンピック開催に必要なものは造らなければならない。

ところが、例によってオリンピック開催に直接関係のない、いわゆる便乗事案がいろいろ取りざたされている。その最たるものが、リニア中央新幹線前倒し論と、成田・羽田空港直通鉄道である。これらはオリンピック開催とは直接関係しない。リニア新幹線については、前回のオリンピックに合わせて東海道新幹線が開業した事例をあげて、2020年までに間に合わせたい、という経団連の会長の発言が元となっている。それに政府の官房長官が一部開業などと悪乗りしているのだ。2027年まで14年かかる工期を半分にしろ、という発想はどこかの独裁者と同じだ。おそらくこれは経団連会長個人の考えで、ほかの名だたる企業のお偉方にはそのようなおバカな発想はないことを祈りたい。官房長官はこのリニア新幹線の性格を理解していないとお察しする。

今日(2013.09.18)、JR東海がリニア中央新幹線の詳細ルートと各県駅の場所を発表した。東京(品川)と名古屋は現在の新幹線駅の地下に造られるが、ほかの各県の駅はいずれもおよそ辺鄙なところに造られるようだ。それもそのはずで、本来この新幹線は東京と名古屋、新大阪(2045年予定)を直通するための鉄道で、中間駅はあまり重きを置いていないからだ。列車の運行も12分間隔(1時間に5本)で運転するが、そのうち各駅停車は2割ほどという。また、中間各駅は駅員も配置せず乗車券売り場もない無人駅だ。駅に関してはローカル線並みなのである。切符はインターネットによる販売になるという。そうなれば、そんなに立派な駅を造る必要はないのだろう。各地元では早くも期待する声があるようだが、立派な駅にすることは地元負担でご自由に、ということらしい。着工は来年(2014年)で、このリニア前倒し案は、JR東海社長と国土交通大臣が一蹴したことで立ち消えになるだろう。

一方の成田・羽田空港直通鉄道は以前から話としてはあったが、これを機会に浮上させようとする動きがある。これは両空港から東京駅まで新線を建設して都心からのアクセスを良くしようとするものだが、計画は良しとしてもオリンピックに間に合うわけもない。オリンピックに便乗して権益を貪ろうとする省庁と利権に群がる業者の思惑だろう。東京都知事はこの新線計画を否定した。このような便乗はこれからも出てくるのは必至で、オリンピック開催地の長として十分気をつけなくてはいけないと語っている。

両空港へのアクセスはこのところかなり改善されている。遠い遠いといわれてきた成田空港は成田スカイアクセス線の開業でずいぶん近くなった。羽田空港も京急蒲田駅付近の改良によって大幅にアクセスがよくなった。ただ、どちらも都心部すなわち東京駅に乗り入れていないことが付け入る隙となっている。だが、両空港は都営地下鉄浅草線で東京駅のそばを通ってすでに直通電車で結ばれているのだ。そこで浅草線から分岐して東京駅の八重洲側地下にいたる線路を敷いて東京駅に乗り入れるという案が以前からある。この案のほうがより現実的だろう。いずれにしても2020年に間に合わせる必要はまったくない。ゆっくり検討すればいいのだ。それに、せっかくきれいになった東京駅がまた工事現場になることは勘弁してほしい。
(2013.09.18)

関連ページ:「鉄道の敷き方」