ソフトウェア開発
現状
自前のソフト製品開発と受託開発
コンピュータビジネスのなかでもっとも企業の多いのがソフトウェア開発業である。現在、日本のソフトウェア開発会社は数千社とも言われているが、その規模も年商8000億円を超える大企業から、マンションの一室で2、3人でやっているものなど千差万別である。
ソフトウェア開発は人手による手作りの仕事であるために、開発に必要なコンピュータ機器など以外には大きな設備を必要とせず、比較的簡単に起業できる。そのため、独自の発想と技術をもっていれば少人数で会社運営はやってゆける。現にユニークなソフトウェア製品を開発して成功している会社は多い。ソフトウェア会社にはこのような自主的にソフトウェア製品を開発販売するものと、ユーザー企業から受託してソフトウェアの開発を行うもの、および両方をやっているところがある。

受託開発はITビジネスのかなめ
システム開発のかなめとなるのは受託ソフトウェア開発である。ユーザー企業の要望に沿ったソフトウェアを開発するが、完成したソフトウェアをユーザーに引き渡せば終わりである。できたソフトウェアはユーザーのもので、請け負ったソフト会社にとっては価値はなく、それを販売することもできない。ソフト会社にとっては要員を抱えて、その技術と労働力を提供することが価値を生み出す。建設業などの請負と同じである。作業の形態も多くの人間を動員する労働集約作業となる。

受託開発のやりかた
受託ソフトウェア開発はユーザーとの共同作業となる。一定のプロセスにしたがってユーザーと役割分担をしながら進行する
ソフト会社はPM(Project Manager)、SE(System Engineer)、PG(Programmer)などの開発要員をアサインするが、何人の要員を投入してどのように開発するかは請け負ったソフト会社に任される。

開発の多くはプロジェクトを編成して遂行される。プロジェクトはプロジェクト・マネジャー(PM)を頂点とするピラミッド型の組織である。開発の成否は予定の納期、コスト、品質が満たされたかどうかで決まるので開発中のコントロールが重要である。このような全体のコントロールをするのがプロジェクト・マネジャーで、最初から最後までの全工程を取り仕切る。システム・エンジニア(SE)は要求定義から詳細の設計まで落とし込み、実際の作業の進捗を管理する。詳細なプログラム設計にしたがってプログラムを作るのがプログラマ(PG)である。一般的なキャリアパスはPG→SE→PMの順となるが、一人前のSEになるには6〜7年はかかる。PMは10年以上の実務経験を必要とする。このように上位技術者の養成には時間がかかるため、慢性的な不足状態になっている。一方で、案件は増加の一途であり、いきおい経験の浅い技術者が担当することでいろいろな問題を引き起こしているプロジェクトも多い。

受託開発は岐路に立っている
しかし、いまソフト開発業界は岐路に立っている。それは、進歩するIT産業の中でソフト開発業界がとってきた元請け・下請け構造や人月見積もりなどの伝統的なやりかたが現状にそぐわなくなってきたためである。メインフレーム時代に大きく成長して日本独自の環境の中で守られてきたソフト開発業界はオープンシステム時代にはいってもあまり変わらなかった。新しい技術や手法への取り組みも遅かった。それまでの成功体験や蓄積してきた実績が逆に足かせとなって急に舵を切ることはできなかったこともある。メインフレーム時代のなかったアジアの近隣諸国との違いはそこにある。このような諸国が追い上げてきている現実から目をそらすことはできない。

ソフト開発産業は労働集約産業のため人間の意識を変えなくては新しいことができない。ユーザー企業を含めたソフトウェア開発全体の抜本的改革が必要となる。