第五巡  平成16年9月30日
第二十五番 三田山魚籃寺(みたさんぎょらんじ)
経路 奥沢(目黒線、三田線)→白金高輪
台風一過の抜けるような青空。風が強くて暑い。
地下鉄出口を出て魚籃(ぎょらん)坂に向かう。かなり長い坂の中間あたりに魚籃寺はある。もともとお寺が先にあって、坂の名前になったそうだ。赤い門をくぐると古そうな本堂がある。本尊は「魚籃観世音菩薩」といって中国伝来(唐の時代、1200年くらい昔)で、魚をいれた竹籠を右手に提げた乙女の姿をしている珍しい観音さまである。縁起は複雑なのでここには記さないが秘仏とされている。
身の丈は20cmほどで、厨子に安置されて社務所受付のカウンター横に祀られていたが、あまりに小さいので、聞くまでわからなかったほどである。秘仏にしてはずいぶん無造作に置いてあると感心した。おまけに横にぬいぐるみみたいな犬がすわっていて、これもはじめ、ぬいぐるみだと思って、そばに置いてあるパンフレットをとろうとしたら頭がすーっと動いたので仰天した。変わったお寺だ。

第二十六番 周光山長寿院済海寺
(しゅうこうざんちょうじゅいんさいかいじ)
経路 徒歩
魚籃坂をさらに上って伊皿子の交差点を左折して、二本榎通りを北上する。地図で見るとこのあたりはお寺が密集している。しばらく行くと三田台公園、亀塚公園とあってその隣に済海寺がある。えらく現代風の建物で、周りに墓地がなければお寺とはわからない。本尊は「亀塚正観世音菩薩」といって亀のうえに立っている観音さまである。この観音さまも16cmくらいの木像で、本堂に安置されている。亀塚というのは寺内にあった塚がその形からそう呼ばれたとする説があるが定説ではないらしい。
このお寺には最初のフランス公使館が設営されたという碑がたっている。

第二十七番 来迎山道往寺(らいごうさんどうおうじ)
経路 徒歩
もとの道をもどって伊皿子交差点を左折して伊皿子坂を下り、第一京浜国道を目指す。道往寺は地図でみると、国道からちょっと引っ込んでいるような感じだったがまったく見当たらず、また迷ってしまった。このあたりはまだ昔の民家がマンションやビルのあいだに取り残されているが、お寺も多分そうだろうと思って大分ウロウロしたが見つからない。コンビニに聞いたら知らないという。まあ、アルバイトだからしょうがないと思って、向かいの酒屋のおじさんに聞く。教えてもらったとおりに行くと路地のどんづまりに階段があってそのうえだった。墓地の脇を通って行くとひどく草深いなかに古いお寺があった。あまりに草深くて蚊にさされた。
本堂にあげてもらって本尊の「聖観世音菩薩」と「千手観世音菩薩」にお参りした。
次の札所に行く前に、泉岳寺に立ち寄る。

第二十九番 高野山東京別院(こうやさんとうきょうべついん)
経路 泉岳寺(浅草線)→高輪台
高輪台駅を出ると、また二本榎通りが通っている。これを北上する。この辺もお寺が多い。東京というところもつくづくお寺の多い町だと思う。やはり江戸の名残りはしっかり根付いている。
高野山東京別院は徳川幕府が開かれたことに伴い、慶長年間に開創されたのが始まりで、延宝元年に現在地(芝二本榎、住居表示は高輪)に「高野山江戸在番所高野寺」として正式に建立された。その後昭和2年に「高野山東京別院」に改称し、住職は総本山金剛峰寺座主が兼務しているという。つまり、「東京の高野山金剛峰寺」である。大きな寺院の多くが東京に別院をもっていることは、たとえば、大阪の大企業が東京本社をもつのと同じ考えである。
高野山別院の本尊は当然「弘法大師」だが、札所本尊は「聖観世音菩薩」を祀っている。暗い大きな本堂の端っこに祀られている観音さまをひとりで拝んできたが、誰もいない暗い空間に仏さまのまわりだけがかすかに照明されていて神秘的な光景だった。境内には四国八十八ヶ所霊場の碑がある。
つぎは港区から出て品川区に移動する。

第三十一番 海照山普門院別格本山品川寺
(かいしょうざんふもんいんべっかくほんざんほんせんじ)
経路 高輪台(浅草線)→泉岳寺(京急)→青物横丁
青物横丁駅から旧東海道にはいって5分足らずで着く。門をはいると左手に青銅の大きなお地蔵さまが座ってござる。江戸六地蔵の一番とのこと。品川寺は”ほんせんじ”であるが、そのまま”しながわでら”と呼ばれている。本尊は「水月観世音菩薩」と「聖観世音菩薩」を祀る。本堂の正面の厨子に安置されているとの説明だが、暗くてよくわからなかった。境内には梵鐘があるが、この鐘は明治維新の廃仏毀釈のどさくさで海外に持ち出され、行方不明になっていたところ、スイス、ジュネーブの博物館にあることがわかり、昭和5年に50数年ぶりに帰還したものという。

番外 龍吟山千躰荒神殿海雲寺
(りゅうぎんざんせんたいこうじんでんかいうんじ)
経路 徒歩
品川寺のすぐ隣。曹洞宗の禅寺。山門があるがすぐ横の民家に妙に接しているのは威容をを損なう。境内は広く明るくて気持ちがよい。本尊は「十一面観世音菩薩」。また、「千躰(せんたい)三宝荒神」を祀っていて、「品川の荒神様」と親しまれている。荒神様は台所の神様として昔から信仰の対象で、普通の家の台所には必ず祀ってあったが、それも最近はだんだん住宅事情の変化で廃れていくようだ。荒神様の火の用心のお札をもらった。

第三十番 豊盛山延命院一心寺
(ほうせいざんえんめいいんいっしんじ)
経路 徒歩
旧東海道を品川のほうに戻る。
一心寺は新馬場駅に近い街道沿いにあって、両側をビルにはさまれた場所にある。ちょうちんやら幔幕で色取り豊かだがこじんまりとしたお寺である。
成田山分身の「不動明王」を本尊とし、札所本尊として、「聖観世音菩薩」を祀る。ご住職電話中で、電話しながらご朱印帳に書いてくれたが、そのためか、ずいぶんあっさりしたものになった。
街道に面して山門があるが、その隣が魚屋でおやじが店先で魚を焼いていた。その煙とにおいが立ち込めるきわめて庶民的な町中のお寺だった。