江戸五色不動 2007.04.01
4月1日日曜日、エイプリル・フール(万愚節または四月馬鹿の日ともいう)。

天気はいいし、桜が満開になって「さくらどころ」はどこに行ってもたいへんな混雑だろう。急に思い立って、江戸五色不動のうち、まだ行っていない目青不動、目黄不動、目白不動に行ってみることにした。目黒と目白は地名や駅名として定着していて、とくに目黒不動は目黒線の不動前駅もあるので有名だが、目白も不動尊からきていると知ったのはごく最近のことだった。さらに目青、目赤、目黄不動をを合わせて江戸五色不動があると知って興味が湧いた。

五色(ごしき)不動とは、目白、目赤、目黒、目青、目黄の不動尊をいうが、この目というのは方角のことで、寛永年間に江戸城鎮護のための不動明王を東西南北中央の五方角に祀ったとされる。現在、当初と同じ場所にあるのは、目黒(龍泉寺、目黒区下目黒)、目赤(南谷寺、文京区本駒込)および目黄(永久寺、台東区三ノ輪)で、目白(金乗院、豊島区高田)と目青(教学院、世田谷区太子堂)は後年移転したものである。しかし方角とはいいながら、各不動尊は地図上で見ても江戸城の東西南北に配置されたとはいいがたい位置にある。昔は鷹揚だったのかどうか、本当のところはわからない。また、目黄は江戸川区平井の天台宗最勝寺とすることもあって、両方の寺ではともに目黄不動尊を名乗っているそうである。これもまたよくわからない。
さて、目青不動尊を出発点に目黄、目白の順に先日スタートしたばかりのPASMO/Suicaを使って鉄道を乗り継いでいくことにする。

東急田園都市線の三軒茶屋でおりて、民家が密集する小道を進むと、目青不動はすぐである。天台宗教学院の裏参道から入るとすぐ右手に不動堂がある。教学院の本堂の裏手のせいか、なにかうらびれたところで、不動堂もあまり立派でない。それでも堂の扉は開いていて参拝することはできる。金網に遮られて不動明王ははっきりとは見えないが、参拝して次に向かう。


目青不動堂
三軒茶屋から田園都市線、半蔵門線、銀座線を乗り継いで日比谷線の三ノ輪駅に着く。目黄不動・天台宗永久寺は駅を出て1分のところにあるが、うっかりすると見過ごしてしまいそうな、およそお寺らしくないたたずまいである。門の表札にたしかに目黄不動とあるが、何か拍子抜けしてしまう。しかし門をはいるとすぐ左手にかなり立派な石碑が建っていてその向こうに不動堂があった。ちょっと今風の建物で扉は閉まっている。どこのお不動さんにもある提灯もなく、鉦も賽銭箱もない。どうもあまりやる気がない風情である。

目黄不動石碑

目黄不動堂
三ノ輪には有名な浄閑寺がある。別名「投げ込み寺」ともいわれ、むかし近くにあった新吉原遊郭の遊女たちの最後の行き場となったお寺である。いまはそんな陰惨な過去はみじんも感じさせない立派なお寺である。

この浄閑寺を出て歩いていたら、自転車に乗ったおじさんが近づいてきて、「アラーキー知ってる?」と聞いてきた。はじめはなんのことかわからなかったが、「写真家のアラーキー?」と問い返すと、「あそこがアラーキーの生まれた家のあったところ」と指さすところをみると、民家に挟まれた空地で駐車場になっている。アラーキーこと写真家の荒木経惟の生家跡だという。カメラをぶら下げてウロウロしているのを見て声をかけてきたらしいが、下町の人は気さくである。お礼を言って別れた。

三ノ輪駅に近い三ノ輪橋駅から早稲田まで都電荒川線が走っている。専用軌道を走るので唯一残った都電である。こんどはこれに乗って目白不動に向かう。その前に腹ごしらえをしようと三ノ輪橋商店街の蕎麦屋にはいった。ちょっと離れた席に年配の男女が食事中だった。女性のほうがかなり大きな声でしゃべっていて、聞くともなしに聞こえてくる中に、自由が丘のM信託銀行、D証券・・・などの話をしている。我が家の生活圏の話がなんでこんな遠く離れたところで・・・と、ちょっとびっくりした。

浄土宗浄閑寺山門 荒川区南千住

アラーキーの生家跡地・・・駐車場 台東区三ノ輪
都電荒川線の三ノ輪橋駅に行くとホームにはすでに行列ができている。目白不動のある金乗院(こんじょういん)は学習院下で下車するが、ここからは50分の長丁場である。いつもはあまり座らないが、きょうは座らせてもらう。この路線は人気があっていつも混んでいる。車両は幅が狭いためすぐ満員状態となる。途中に荒川遊園地、飛鳥山公園、雑司ヶ谷など有名どころがあるので各駅で積み残しがでるほどの混雑である。その混雑の中、前に立った二人づれの女性の会話がもれ聞こえてくる。電車の騒音に負けないように大声でしゃべるのだが、それが今度は都立大学駅だとか、東横線沿線の話題なのだ。さっきの蕎麦屋でのことといい、なんで今日はこんなに同じようなことに遭遇するのだろう。不思議だ。

都電荒川線 三ノ輪橋駅
都電荒川線は専用軌道とはいえ、大きな道路と交差するときは道路信号に従う。そのためしばしば停車する。かなりまどろっこしいが逆にのんびりしていていい面もある。やっとのことで学習院下駅に着いた。ここから5分くらい歩くと目指す金乗院がある。門構えも立派でさきほどとは大分違う雰囲気である。不動堂は一段高い所にある。提灯はないが鉦も賽銭箱もある。このお寺は真言宗豊山派で、弘法大師御府内八十八ヵ所の第三十八番札所でもある。お大師さんとお不動さんが一緒になっているお寺は多い。また、本尊は聖観音菩薩で江戸三十三観音の第十四番札所でもある。いろいろあるお寺である。

目白不動堂

山門 弘法大師の石碑とその左に不動明王の像が並ぶ
これで不動めぐりは終わった。目黒と目赤はすでに行っているので五色不動はひととおり巡ったことになる。このあと、神田川沿いの桜を見て帰ることにした。途中、氷川神社の前を通りかかると、そこで熱心に何かを見ている、中年の女性がいて「ちょっとこれを見て」と声をかけてきた。見ると緑色の花をつけた桜である。木はまだ2メートルくらいで小さくて目立たないので、ほとんど気付かずに通り過ぎてしまいそうだが、おかげで珍しいものを見せてもらった。きょうはよく声をかけられる日だ。

神田川の両岸には桜が植えてあって、まさに満開である。枝が両岸から川のほうにのびているので桜のトンネル状態になっている。花は見事だが深く掘り下げられた川にコンクリートの護岸では風情も半減というところである。洪水多発の神田川なので仕方ないのだろう。その足で早稲田大学を通りぬけて東西線早稲田駅から帰途につく。

緑色の桜 (里桜?)  豊島区高田氷川神社にて

神田川の桜 面影橋から
目赤不動
天台宗南谷寺
文京区本駒込にある。
本尊は本来、三重県の赤目山で造立された赤目不動尊だったが、将軍家光の命により、目赤不動尊と改名したという。
2007.03
目黒不動
天台宗龍泉寺
目黒区下目黒にある。
関東最古の不動霊場で、関東三十六不動霊場の第十八番札所だが、本尊不動明王は12年に1度酉年に開扉される秘仏となっている。
また、観音堂には聖観世音菩薩が奉安されており、江戸三十三観音霊場の第三十三番札所になっているので、ここで結願成就の御朱印が授けられる。
2004.10