噺

噺の種類と分類

大きく分けると、滑稽噺、人情噺、芝居噺、怪談噺などになるが、滑稽噺が圧倒的に多く、これをさらに分類すると、居候、お店(おたな)、廓、大名(武家)、隠居、長屋、粗忽、吝嗇(りんしょく、けち)、酒呑み、旅、幇間、泥坊、与太郎、強情、動物などのように、登場人物や、噺の舞台によってさまざまに分けられる。

それぞれの概要と、噺の題目を示す。
・滑稽噺
文字通り、面白おかしい、抱腹絶倒、荒唐無稽といった噺である。言い方を変えれば、バカバカしい噺ということになるが、そのバカバカしさを楽しむのである。それは、噺の筋立てや登場人物のことば、ものの言い方、やり取りなどがうまく合わさって、独特のおかしさ、面白さが演出されるのである。したがって、「なんだ、バカバカしい」と言下に否定してしまっては、身も蓋もなく、そのような向きは落語を聞いても仕方がないだろう。

・居候もの
居候すなわち食客のでてくる噺。ほとんどは、放蕩のあげくに家にいられなくなって、出入りの職人、鳶頭、船宿などに転がり込んで居候をきめこむ商家の若旦那の噺である。結局はそこにもいられなくなって、いろんな人生をたどる。

【湯屋番】、【船徳】、【唐茄子屋政談】
・お店(おたな)もの
商家を舞台とした噺。大旦那、お内儀、若旦那、妾、番頭、丁稚、権助などがでてくる。

【百年目】、【干物箱】、【近日むすこ】、【悋気の火の玉】、【千両みかん】、【崇徳院】、【羽織の遊び】、【花見小僧】、【山崎屋】、【喜撰小僧】
・廓(くるわ)もの
遊郭が舞台になる噺。その当時の吉原、品川などの遊郭の、そういった世界を描くが、現代では全く見られなくなったものだけに、その様子を伝える廓噺は貴重である。多くがしたたかな遊女にだまされる男たちの噺であるが、今の時代に通ずるものがある。ひと昔前までは、実際に遊郭というものを体験した噺家が演じていたために、実感のこもった噺となっていたのが、そういう噺家がいなくなっていくと、だんだんやりにくくなって、廃れていくのかもしれない。

【三枚起請】、【星野屋】、【品川心中】、【五人まわし】、【明烏】、【お見立て】、【付き馬】、【文違い】、【お茶汲み】、【坊主のあそび】、【首ったけ】、【みいらとり】、【居残り佐平次】、【突き落とし】、【お直し】
・大名(武家)もの
大名、武士が題材になる噺。でてくる武士は大名(殿様)、奉行、藩の重役、平侍、浪人などで、いずれも町人側から見た侍たちが描かれる。士農工商の時代にあって、身分的には支配階級としての武士が幅を利かせていたが、経済的な面では工商が優位にたち、武士に比べて自由な生活をしていた。そんな町人からは侍の世界は堅苦しく、融通の利かないものに見えたに違いない。なかでも地方から出てきて江戸屋敷に詰める田舎侍たちは野暮の典型であり、江戸っ子たちの相容れない対象だったと思われる。しかし、二本差しの侍は町人にとっては怖い存在で、それに逆らわないようにしながら、そういった野暮侍を揶揄するような噺も多い。

【目黒のさんま】、【火焔太鼓】、【たがや】、【蔵前駕篭】、【禁酒番屋】、【二番煎じ】、【石返し】、【巌流島】、【盃の殿様】、【将棋の殿様】、【そばの殿様】、【妾馬】、【花見の仇討ち】、【高田馬場】、【棒だら】
・隠居もの
一線を退いて悠々自適のご隠居を主人公とした噺。

【茶の湯】、【笠碁】、【道灌】
・長屋もの
落語ではおそらく噺の数が一番多いと思われる。いわゆる、熊さん、八っつぁんを代表とする町人の本拠地の噺である。長屋にいるいろんな個性の住人たちが起こすゴタゴタが筋立てになっている。

【三軒長屋】、【お化け長屋】、【大工調べ】、【三方一両損】、【言い訳座頭】、【らくだ】、【御慶】、【小言幸兵衛】、【まんじゅうこわい】、【尻餅】、【長屋の花見】、【野ざらし】、【御神酒徳利】、【時そば】、【うどんや】、【酢どうふ】、【あくび指南】、【厩火事】、【へっつい幽霊】、【天災】、【寝床】、【堪忍袋】、【反魂香】、【黄金餅】
・粗忽もの
粗忽(おっちょこちょい、そそっかしい)の人間がふりまく笑い噺。

そこつ長屋】、【そこつの使者】、【そこつの釘】、【堀の内】
・吝嗇(けち)もの
けちな人間というのは、本人としては、いたってまじめに行動しているつもりなのだが、まわりから見ると滑稽なところがある。また、そのような人間の陰で我慢を強いられる人間がいたりして、噺を面白くするのである。

【味噌蔵】、【片棒】、【あたま山】、【しわい屋】、【位牌屋】
・酒呑みもの
のん兵衛の噺。

【ひとり酒盛り】、【居酒屋】、【ずっこけ】、【親子酒】、【かわり目】、【猫の災難】、【夢の酒】、【寄合い酒】
・旅もの
江戸時代、庶民はよく旅をしたといわれる。お伊勢参りをはじめ上方めぐり、富士講など大勢の人間が街道を歩いていたが、その道中で起きる出来事が噺になる。

【三人旅】、【大山まいり】、【宿屋の仇討ち】、【三十石】、【富士まいり】、【野崎まいり】、【七度狐】、【うそつき村】
・幇間(たいこもち)もの
幇間というのは、男芸者で、東京にはいまでも数人実在するといわれる。落語では、いつもスポンサーたる旦那のご機嫌を伺い、「しくじっちゃァ、いけない」と、涙ぐましい努力をするが、必ずしも報われないという男芸者ならではの哀歓を描いた噺が中心で、あまり立派な仕事をした人物はでてこない。

【愛宕山】、【鰻の幇間】、【つるつる】、【たいこ腹】、【富久】
・泥坊もの
泥坊が主役の噺は多い。いつの世にもかならずいるのは泥坊、盗ッ人の類で、これはいまも変わらない。しかし、噺のなかの泥的は一流ではなく、かならず失敗することで「悪」をある程度帳消しにしている。

【穴どろ】、【碁どろ】、【転宅】、【夏どろ】、【つづら泥】、【しめこみ】、【釜どろ】、【だくだく】、【へっつい盗ッ人】、【お血脈】、【置きどろ】
・与太郎もの
ばかの与太郎が主人公の噺。

【道具屋】、【ろくろっ首】、【錦の袈裟】、【孝行糖】、【牛ほめ】
強情もの
熱い湯や灸を我慢したり、屁理屈を並び立てて自説を曲げないなど、強情な人間を描いた噺。

【強情灸】、【やかん】、【浮世根問い】
・動物もの
動物が主役の噺。

【王子の狐】、【狸賽】、【犬の目】、【権兵衛だぬき】、【化け物使い】、【もと犬】
・人情噺
男女や夫婦、親子の情愛などを主題にしたもので、当然ながら笑いは少なく、しんみりとした調子の噺である。人情の機微や道徳的な教えといった面もある。とは言っても落語なので、噺のところどころにはクスグリ(笑わせるための仕掛け)がおかれていることも多い。人情噺は一般に長い噺が多く、いくつかに分けて演じられることもある。このように分けられた部分が独立した人情噺もある。また、なかには落ちがあっても人情噺としている場合もある。

【芝浜】、【ちきり伊勢屋】、【子別れ】、【火事むすこ】、【鰍沢】、【文七元結】
・芝居噺
芝居を題材にしたもので、大阪では、芝居に関する噺のすべてをいうが、東京では人情噺の途中で鳴り物や声色を入れて、衣装の引き抜きや、背景や小道具を使うなど歌舞伎調になる、正本(しょうほん)芝居噺というものを指すという。芝居に関する噺としては以下のようなものがある。

【五段目】、【七段目】、【二階ぞめき】、【中村仲蔵】、【権助芝居】、【さんま芝居】、【蛙茶番】、【淀五郎】
・怪談噺
芝居噺の一種で、とくに夏場の寄席で、因果・因縁噺が最高潮に達したときに、突如照明を暗くして、火の玉が飛んだり、幽霊に扮した噺家(前座が多い)が登場し、鳴り物を入れて効果を盛り上げる。

【真景累ヶ淵】、【怪談牡丹燈籠】

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