つくば行脚

2005年8月24日、つくばエクスプレス(TX)が開業した。これまで、つくば研究学園都市に行くにはJR常磐線経由か、高速バスに乗っていたが、いずれも1時間以上かかっていた。そこに最速で45分という新しい鉄道ができたのである。因みに、秋葉原〜つくば間の所要時間を比較すると、TX45分、JR常磐線経由85分、高速バス65分となっていてTXが有利。開業当日秋葉原からつくばまで乗車してみた。

秋葉原駅周辺は、いまIT産業の拠点とすべく大規模な再開発が行われていて大変貌の真っ最中である。その中核となるJR秋葉原駅には中央改札口が新設された。その場所は、電気街口(西口)と、昭和通り口(東口)との中間に位置し、ちょうどワシントンホテルの前あたりになる。ここは長い間高い鉄板の塀で閉ざされた広大な廃墟だったが、今回大きく開かれ、新しいJR秋葉原駅の中心に生まれ変わった。

TXへの入り口はこのJR中央改札口の両脇にあって、深さ33メートルにある地下駅につながっている。開業初日とあってかなりの人出で、上り列車でつくば方面からやってきた人波と、これからつくば方面に行こうとする人波がぶつかって大混雑となっていた。さらに切符を買う行列が地上まであふれている。あとでわかったが券売機が4台しかないためらしい。そのため、別途駅員がパスネットを売って対応していたので、3000円分を買って行列を尻目に即改札へ。これがあとで大正解だったことがわかる。

プラットホームに降りると、ちょうど列車が到着したところで、ここも大混雑である。通勤時間帯も過ぎているので、ほとんどが家族連れなどの見物客たちである。それに大勢の鉄道マニアたちが混雑に拍車をかける(ひとのことは言えないが)。しかし、乗ってみるとそれほどの混みかたではなく、座ろうと思えば座れる程度である。とりあえず終点まで行くことにして、11:15発の区間快速つくば行きに乗り込む。途中駅などの状況を観察しておいて、帰りにゆっくり撮影しようという戦略である。

TXは全線が地下部分と高架橋であるため、外部から車両を撮影するのは河川の鉄橋あたり以外はかなり困難である。そのうえ、各駅にはホームゲートが設置されていて、これが撮影を妨げる。したがって、車両全体の姿を撮るには駅ホームの先端部分しかないのである。各駅のホーム先端部分がどうなっているかを前もって調べることは撮影を効率よく行うために重要なことである。そのためには座っていてはいけないので、ドアの横に陣取って立つ。

さて、定刻どおりに発車した電車はスムーズに走行するが、北千住までは各駅停車のうえ、かなり急カーブが多いため、それほどスピードを上げられない。南千住までは地下線で、その先の急勾配を駆け上がって地上に出ると右側に日比谷線、左側に常磐線の線路が来ていて並んで隅田川を渡り、そのまま高架となって北千住駅に滑り込む。駅の先端部にはマニアたちがいてレンズを向けている。どうやらここは条件がいいらしい。

北千住を発車すると左側の常磐線の向こうに千代田線の線路が地下から上がってきて並ぶ。そのまま鉄橋で荒川を越えるが、ここでは他に東武伊勢崎線の複々線がTXの右側を走っているので都合5複線の鉄橋が並ぶ。川の土手を見ると案の定マニアたちがレンズを向けていた。荒川を渡り終えるとTXは坂を下り始め、常磐線の下をくぐって地下線に突入する。ここからは直線区間で一気にスピードを上げる。途中の青井と六町は通過するが、おそらく最高速度130Km/hに近いスピードで走り抜ける。ホームゲートがあるために安心して運転できるのだろうが、地下線での速度は首都圏では最高速と思われる。

しばらく地下を走るとやがて勾配を上りはじめて地上の高架線になり八潮駅に着く。ここからはとたんに景色が変わる。広々した田園地帯あり、手入れされていない荒地あり、ところどころにこんもりした森もある。途中駅のまわりもまだ、空き地だらけのところが目立つ。もともと人がいるところを結ぶのではなく、鉄道を敷いて人を集めようとする方法であるから、今時点では当然の姿だろう。かつての東急田園都市線も同じような状況だった。40年たったいま、沿線には多くの町ができ、人口も急速に増えて電車は超過密路線となってパンク状態になっている。電車の大混雑は困ったものだが、東急電鉄の多摩田園都市開発プロジェクトは大成功だったといえるだろう。TXが同じような発展を遂げるのはいつごろだろうか。

電車は快調に走る。やはり130Km/hは速い、という印象である。ゆれも少ないが、コンクリートの高架橋でスラブ軌道のせいか騒音のほうはかなりある。時速130Km対応車両というのは、一般通勤型車両ではまだ少数派であるが、最近JR常磐線に投入されたE531系はその代表である。これは、つくばエクスプレスに対抗してJR東日本が常磐線の高速化を狙って製造したものである。
なお、特急用の車両では130Km/h以上に対応できるものがほとんどで、最も速いのは「ほくほく線」(越後湯沢〜北越急行〜金沢)を走る特急「はくたか」に使われる681系、683系で、160Km/h運転を行っている。

「流山おおたかの森」という長い名の駅では東武野田線と乗換えができる。そしてここでは快速、区間快速が各駅停車を追い越せるように2面4線のホームとなっている。ホーム先端はゆったりと造られていて、撮影には好都合そうである。現にマニアが群がっていた。帰りの撮影地点と決める。
また、駅名になっている「おおたかの森」は絶滅の危機に瀕している「おおたか」が棲みついている森が近くにあって、保護団体との協議のうえで線路や駅の場所を決めたという。

利根川を渡ると茨城県である。TXは茨城県にはいると、電気方式が交流に変わる。JRや相互乗り入れではめずらしいことではないが、たかだか60Kmくらいの単独路線で直流交流の2方式を併用しているのはめずらしい。これは茨城県八郷町に気象庁の地磁気観測所があるため、観測への影響が出ないよう交流を併用した、からである。したがって秋葉原〜守谷間は直流、守谷〜つくば間は交流区間となっていて、守谷駅の先にある直流と交流の境(デッドセクション)で電車は走りながら自動的に切り替える。そのためにTXでは直流車の1000系のほかに交直両用車の2000系を使う。1000系は秋葉原〜守谷間のみの運用となるが、2000系は全線走行可能である。
地磁気観測所というのは筑波山の麓にあり、約10Km東を常磐線が走っていてこれも交流である(取手〜藤代間で交直を切り替える)。TXの守谷駅はその南西約35Kmくらいのところにある。要するに観測所から一定の距離以内を走る電気鉄道は交流でなければいけないということのようだ。

車内はだんだんと混みあってくる。ベビーカーに赤子を乗せたり、幼児連れが増えてきた。つくばにはなにか子供向きのものがあるのだろうか。しばらく走ると左側に筑波山がうっすらと見えてくる。再び地下線にはいると終点つくばはすぐである。
ホームに降り立つと、またすごい混雑である。ようやくエスカレーターで改札フロアに上がって改札口を出て驚いた。ここでも上りの切符を買い求める長蛇の列ができている。それが秋葉原よりももっと長いのである。二重三重にとぐろを巻いている。おそらく30分以上も待つだろう。往復分のパスネットを買っておいたのが大正解だったのである。

地上に出るとそこは「つくばセンター」で、高速バスのターミナルやホテル、商業施設などが集まっている、文字通りセンター的雰囲気のところだった。西武やジャスコなどを中心とするモールがある。ちょっとしゃれた雰囲気の店があってアメリカの地方都市にあるモールに似ている。
向かいにある広場ではお祭りをやっていて屋台が出てにぎわっていた。車中の子供づれはここにきたのだろう。
反対側には中央公園があり、森の向こうにエキスポセンターのロケットの先端部分が見える。本来であればせっかく来たのでいろいろ見て歩きたいが、きょうは時間がない。

駅の出口からはぞくぞくと人があがってきてごった返している。この辺で再度電車に乗って引き返し、撮影に向かう。切符売り場はまだ長蛇の列が続いている。パスネットでなんなく改札し、ホームに降りる。13:11発の快速に乗る。計画通り「流山おおたかの森」で下車し、ホームの最後部に行くと先客が数人いた。ここでしばらくねばって発着する電車を撮影した。このあとまた快速に乗って北千住で降りる。ホーム先端はあいかわらずマニアの群れがあった。なんとかもぐりこんで上下線の列車の撮影に成功。

こんどはまた下りの各駅停車で、六町駅に向かう。この駅は東京都内最後の駅であることと、鉄道過疎地域の足立区東北部のまちなかに忽然とできた駅である。どんな表情をしているかを見たい。
駅構内は相当に深い。このあたりは地盤があまり良くないので深くせざるを得ないのだろう。3段階のエスカレータを乗り継いでやっと出口にたどりついた。出るとそこは新しく造成されたと思われる一角で、道路も舗装したてだし、タクシー乗り場まである。まわりは商店などもなく立て込んでいない。そのため広くてすがすがしい。以前クルマで通ったことがあるが、このあたりは民家もまばらで、ところどころに土砂や建材置き場などがあって道路も痛んでいた。しかし、そのおもかげはない。少なくとも駅の周辺は見事に生まれ変わっていた。

これできょうのつくば行脚はすべて終わった。再び上り電車で北千住に戻り、日比谷線に乗り換えて帰途につく。
写真集
秋葉原の変貌 つくば TXの車両 六町駅