大相撲 驚愕のドラマ


2017年大相撲春場所、日本中の熱い期待を背負って新横綱としてのスタートを切った稀勢の里の熱戦を見ようと連日大入り満員が続いている大阪府立体育館。その千秋楽には驚愕のドラマが用意されていた。

白鵬が足のケガが治らず5日目から休場し、日馬富士と鶴竜も取りこぼしが続く横綱陣の中にあって、新横綱は初日から盤石の強さで白星を重ねていた。それはもう以前の稀勢の里とは全く違った余裕綽々の取り口で、相手を圧倒する堂々たる横綱相撲なのだ。とくに押し込まれて土俵際に詰まっても、慌てずうまく回り込んですくい投げや突き落としなどの投げ技をを繰り出す。とにかく落ち着いているということがこれまでとは大違いだ。なんという変わりようだろうか。まさに立場が人を作る、という譬えを地で行っているようだ。

このようにして順調に12日目まで全勝してきた。13日目からは大関横綱陣との対戦となるので、このまま突っ走って連続優勝してくれ!と願ったのだが、相撲の神様はそう甘くはなかった。

その13日目に日馬富士との対戦で、激しいあたりを止められず寄り倒される。その勢いで土俵下に転落して左上腕から肩にかけて強打してしまう。そのときはテレビを見ていなかったのだが、あとで左腕を抑えて苦痛に顔をゆがめる姿を見て、「ええーッ!?」と絶句した。そのまま救急車で病院へ直行してしまった映像を見るに及んで、なんということだ、残り2日は休場か。もう茫然自失である。怪我の詳しいことは公表されず、全治2か月というようなガセネタが飛び交う。状況不明でどうなってるんだ、とイライラしていたら夜になって、なんと強行出場すると発表されたのだ。しかしこんどは、大丈夫か?と心配になる。マスコミが「出場はやめたほうが良い」などとセンモンカなるもののおせっかいなコメントを流す。だが、本人が大丈夫と言っているらしいので、大丈夫なんだろうと思う以外にない。田子の浦親方も「信じるしかない」と言っている。

そして、翌14日目。左肩から腕にかけて大きなテーピングで土俵に上がる。見る限り平常心を保っているようで落ち着いている。対戦相手は鶴竜だ。こういうときの対戦相手はやりにくいと思う。負傷部位を攻めるわけにもゆかず、かといって力を抜くわけにもいかない。立ち合いは案の定、得意の左差しが使えず思うように前に出られない。鶴竜がもろ差しになってあっさり寄り切った。場内にはため息のような失望の声が広がる。やはり無理か。これで2敗となって、ここまで1敗で追走していた大関照ノ富士はその日勝利したため逆転した。明日はこの照ノ富士と対戦するのだが、ここ5場所は怪我でカド番を繰り返していた大関が、ようやく復調に転じて好調だ。思いがけなく目の前にぶら下がったチャンスに必死で挑んでくるだろう。しかも、稀勢の里が優勝するには本割と優勝決定戦の2回の対戦に勝利しなければならない。手負いの横綱が耐えられるか。14日目の様子からは極めて難しいと思わざるを得ない。しかし千秋楽も出場するというのは本人の問題で、他人があれこれ言うのはおかしな話だ。

明けていよいよ千秋楽結び前の一番。おそらく日本中がテレビの前で固唾をのんでいただろう。立ち合いで稀勢の里が右に動いて不成立。再度の立ち合いでは左に動いて突き落としを図るも成功せず、差し手争いとなり寄られたあと土俵際で突き落として勝利!その瞬間、場内は「オオッ」という驚きとともに大歓声が轟音のように沸き上がった。本人はそれでも表情を変えず、淡々としている。むろんテレビの前でも「やったー!すげー!」と大興奮だ。こうなったら決定戦も絶対勝ってほしい。どきどきわくわくしながらテレビにかじりついた。

続く優勝決定戦。立ち合いで今度は照ノ富士がつっかける。2度目の立ち合いでは全館が完全に静まり返った。ものすごい緊張が支配する。テレビの前でも息を止めて凝視するほどだ。立ち上がって照ノ富士がすかさずもろ差しになってそのまま寄って出る。場内は悲鳴があがる。土俵際まで追い詰められて、とっさに右からの小手投を打つと照ノ富士の巨体が右腕を下にして落ちた。はずみで稀勢の里も土俵を転がり落ちた。勝負は一瞬だった。稀勢の里の完勝である。またもや全館を揺るがす大歓声。
2度の取り組みを制して連続優勝!しかも怪我を押しての逆転優勝だ!こんな場面はおそらくこれからもめったに見られないだろう。驚愕するとともに感動して涙が出た。
相撲の神様はとんでもない試練を与えたものだが、それをみごとに乗り越えたのだ。

それにしても稀勢の里という力士、横綱になってもなおファンをヤキモキさせてくれる珍しい存在だ。しかし、それがかえって多くのファンのこころを引き付けるのかもしれない。来場所は番付トップの位置に座ることになる。この優勝でつかんだいろいろな経験はこれから土俵上で生かされるだろう。本人は昇進以来、もっと強くなると繰り返し言っている。亡き先代師匠の厳しい教えを愚直に守ってここまで来た。さらに上を目指そうとするその心意気が頼もしい。すでに横綱の風格を漂わせているのがすごい。白鵬のように盤石の横綱になってほしいと切に願う。

今場所は白鵬ほかの横綱たちは不本意な成績に終わった。一方、大関照ノ富士はカド番脱出のみならず優勝争いを主導するほどに復調し、場所を大いに盛り上げた。また、関脇高安の活躍ぶりがここ数場所著しい。来場所は大関昇進を目指すことになるだろう。夏場所のチケットも発売直後に完売するのではないかと予想されている。とにかく、これまでのマンネリ感が払拭されて大相撲は新しい時代にはいったことは確かだろう。
(2017.03.28)
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